サンドール王国の終焉 6

サンドール王国 王家直轄領 アンゼルマ とある廃村


「やめて!お母さん、お父さん助けて!」少女は叫ぶが助けは来ない。もう彼女の両親はこの世にはいないからだ。


「うっせぇ!黙れ!」眼帯をした厳つい男は、少女の薄い服を剥ぎ取り地面に組伏せる。


鉱山の近いこの辺りの土地は貧しく作物が育ちにくい。それに重税が加わり、農民達は決起する他なかった。農民達は領主の館に雪崩れ込み領守と役人、そしてその家族を皆殺しにし、倉庫に備蓄されていた食糧や硬貨を奪い取った。最初は報復を恐れていたが、時が経つに連れてその恐怖を皆忘れていった。しかし、その全員が再び恐怖を思い出すこととなった。創設された反乱軍の対策部隊がアンゼルマ奪還のため派遣されたのだ。


農民達は鍬や包丁をくくりつけた棒で戦おうしたものの本物の剣には敵わず、なす術なく死んでいった。そして村に残ったのは女と子供だけとなった。


暴れる少女を押さえながら、男が自身のズボンを下ろそうとする。しかしその時、叫び声を聞いた部隊長である騎士が駆けつけてきた。


「これは騎士様。どうされましたか?」眼帯の男は楽しみを邪魔された怒りを込めて言う。


「どうしたじゃないだろ!略奪品は物だろうが人だろうが全て国に帰属する。人身売買にかけるから傷物にするなと言ったはずだ!」


「はぁ?こんな安い給料で命を懸けてご褒美もねぇとは。ちょっと酷すぎやしませんか?」男は気持ち悪い微笑を浮かべる。


「ふざけるな!お前達のような糞みたいな連中が王国のために働けるのだ。むしろ感謝してもいいくらい…」騎士は男に顔面を殴られ壁まで吹き飛ぶ。


「私に対して…。貴族である私に対してなんという無礼だ!死んで詫びろ!」よろよろと立ち上がった騎士は、男に向かって剣を向ける。


その時、騒ぎを聞き付けた部隊の兵達が駆け寄ってくる。


「ここだ、ここだ。こいつを取り押さえ…ガフッ」騎士は部下達に剣を取り上げられ、地面に押さえつけられる。


「テメェ、なにお頭に剣を向けてんだ!」


「お頭、怪我はありませんか。」


「大丈夫だ。」山賊などの寄せ集めであるこの部隊は指揮官でなく、それぞれの山賊の頭が大きな力を持っている。勿論、指揮系統で言えば、部隊長の騎士が上位で山賊頭にはなんの権限もないのだが山賊にとってはどうでもいいことらしい。


「この私にこんなことして、ただで済むと思っているのか!」騎士が震える声でなんとか言い放つ。


「死人に何ができるんだよ?」しかし、その一言で騎士の顔が青ざめる。


「待て、待ってくれ。戦利品の流用がばれたら私の首が飛んでしまう!」


「飛べばいいだろ。」山賊は首に手を当てて騎士を嘲る。


「分かった、3割。3割はお前達はとっていいから…。ヒッ!」騎士の前に剣が突き刺さる。


「お前が3割。俺達が7割だ。」


「…分かった。」


「密告しようもんなら、命の保証はしねぇからな!」山賊、もとい兵達は金と女を探すため他の家屋へと向かって行った。


騎士は解放された後も腰が抜けたせいで、しばらくは立ち上がることができなかった。


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古びた洋館は朝日を受け、雨の日のまがまがしさが嘘のように美しく見える。この洋館のかつての主は地下室で、さらってきた平民の少年少女を拷問にかけたというが、その地下室で平民達が王政府を打倒するために使われることとなるとは夢にも思わなかっただろう。


「王都に潜入しているメンバーより報告がありました。」


「何と?」反乱軍のリーダー、アウグストは書類から顔を上げる。


「王政府が反乱対策のために部隊の設立を進めているとのことです。」


「まずいですね。決起を早めますか?」


「いいや、これは逆に好機かもしれん。」アウグストはメンバーの一人を呼びつけるのだった。

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