サンドール王国の終焉 5

サンドール王国 王城


毎年この季節に王城の庭にプルーぺと呼ばれる青い花が咲き誇るのだが、今年はその姿はない。暗殺未遂事件以来女王ローザは庭に近寄れなくなり、それならば財政が貧窮する中、庭の手入れなど必要ないとのことで庭師は全員首、庭は放置されることなった。


そんなローザは執務室で腰かけていた。暗殺対策のため、カーテンが閉められている。部屋にはローザ、衛兵のカルリーノ、そして宰相と外務相の姿があった。


「陛下、先程職人ギルドより剣10本、槍80本の納入が行われました。」宰相は声を強張らせながら報告をする。


「予定よりかなり少ないな。」女王ローザは苛立たし気に答える。


「武器生産の技法は古文書に記載されているのですが、実際に作るとなると難しいようで。職人がもっと優秀ならばよかったのですが。」宰相はさりげなく責任転嫁をする。


「ツェザールで武器を作っていた職人はどうなった?」ローザはいい案を思い付いたとばかり微笑する。


「それは素晴らしい!」宰相が身振りを加え褒め称える。


「逃亡するか、帝国が捕らえて処刑したようです。いずれにせよ徴発は難しいでしょう。」外務相が言う。


「兵員の拡大はどうなっている?」ばつの悪くなったローザは話を変える。


「志願は集まっていますが元山賊などの荒くれ者ばかりで忠誠心に疑義がもたれます。率直に申し上げますと、ただ暴れたいから兵に志願しただけなのではと。」


「だが今は数も大事だ。選り好みする余裕はない。どうせ相手は下賎な反逆者どもだ。好きなだけ暴れさせればよい。」ローザは反逆者がなす術なく殺されていく光景を想像し恍惚とした表情になるが、それはノックの音によって遮られる。


「失礼します。」役人が扉の外から声をかける。


「何事だ?会議中だぞ!」宰相が役人を叱りつける。どうやら宰相のモットーは強い者には弱く、弱い者には強くらしい。


「サーナンス侯爵、ラーマンツェル伯爵、マーゲルドール子爵がおいでです。」役人は宰相の憤慨を意に介さず用件を告げる。


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「女王陛下につきましてはご機嫌麗しゅう。」いかにも貴族という派手な服を着た男達は、ローザに頭こうべを垂れる。


「何用だ?」ローザは怒りを込めて答える。反乱が多発し機嫌が悪い中、機嫌が麗しいわけがない。


「我が領地では反乱分子どもが跳梁跋扈しており、民の生活に支障をきしております。何卒、新たに編成されるという対反乱部隊を送っていただけないかと。」


「無理だな。訓練どころか、まだ装備すら整っていないのだ。時間がかかる。」王家の直轄地ですら失陥しているのだ。出来るわけがない。


「ならばどうか、我々に反逆者に対抗するための部隊の編成の許可をいただきたい。」ローザはこっちが本命であることを悟る。


貴族に軍を持つことを許可すれば離反が起こりかねないが、このままでは反逆者に領地が取られてしまうのも時間の問題だろう。。貴族連中は信用ならないが反逆者よりはましだ。


「いいだろう。ただし、各領地が持てる軍は王政府の5分の1までだ。後日、書面にて各領に通達を送る。」


「ありがとうございます。」貴族達は再び頭を下げ、部屋から退出した。


サンドール王国 城下町 酒場


「やめてください!」女性の悲鳴が酒場の喧騒を一瞬で掻き消す。一週間ほど前、王都近郊から帝国兵が消えようやく楽しく飲めるようになった。心の中にずっとあった鎖から解放された気分だった。しかし喜びも束の間、招かれざる客がやって来たのだ。


「何がやめてくださいだ。こういう時はもっとやってくださいっていうんだぜ。」頭が禿げ、眼帯をしたがらの悪い男が、ウエイトレスの巨大な胸を揉みしきる。このウエイトレスはこの区画に住む男達の憧れの存在で、声を掛けてもらった、目があったなどと自慢しあったものだ。男達は、眼帯の男を睨む。


「何か文句あんのか?兵隊様に逆らおうって奴は何処のどいつだ?」眼帯の男が周りを見渡すと、一斉に目を剃らし始める。


「くそっ、白けちまったじゃねえか。だが、女の質はは悪くねぇ。また来てやる。」眼帯の男は空の瓶を乱暴に置くと、店の出口へと向かう。


「お客さん、お勘定をお忘れで…」そう言い終わる前に、店主の体は後ろの棚に並べられた酒瓶に衝突する。


「俺に金を要求するなんざいい覚悟だな。あぁん?」


「ひぃ、申し訳ありません。」マスターはすかさず土下座する。


「まぁ、いい。末永い付き合いになるんだ。よろしく頼むぜ。」眼帯男はニヤリと醜悪な笑みを浮かべるのだった。

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