防備

アンゴラス帝国 帝城


「…よって、帝国駐留軍の北部衛星国群はラルクタル王国、パミール王国以外では予定通り衛星国の首都を攻撃後、転進を完了。本日中に全ての艦隊がデザイル軍港へ到着する予定です。」軍務卿デクスターが報告する。


「さて、今後はどうすべきか。」皇帝、バイルは各大臣を見渡す。


「その前に、お見せしたい資料がございます。」珍しく遅刻していないリジーは鞄より、異様に絵が多い本を取り出す。


「日本本土に潜入した間者より、こんなものが送られてきました。」


表紙には『徹底比較!自衛隊とアンゴラス帝国軍』と書いてある。隣には訳された冊子もある。


最初は帝国の兵器の魔写と想定性能。技術体系の違いのせいか、あまり正確ではない。日本の兵器のページに差し掛かるが、その瞬間バイルは本を床に落としてしまう。


「馬鹿な!」バイルは青ざめ、体を震わす。


『こんごう型護衛艦』


排水量7250t


全長161メートル


……


「信じられん。」


「しかし、これほどの性能の持った敵ならば、今までの損害に説明がつきます。」デクスターが言う。


「しかし、我が国の兵器の性能が大きく異なります。欺瞞情報では?」アイルは訝し気な目をリジーへ向ける。


「いずれにせよ、敵は大陸軍艦隊を壊滅させた相手です。戦力の建て直しも必要でこちらから攻め入ることはしばらくは不可能かと。魔導省が新兵器を開発してくれているなら話は別ですが。」デクスターがそう言うとアイルの顔が険しくなる。


「今のところ防衛側に回り、攻めてくる敵を数で押す他ありません。この本によると敵の陸軍は30万人ほどです。現在、デザイル軍港には、大陸軍第二艦隊1000隻、駐留軍艦隊725隻が待機しております。現在転進中の艦隊も合わせて2200隻が防衛に当たる予定です。それに加え、敵の艦砲射撃の射程距離外にゴーレム部隊を含む陸兵を配置予定です。首都の防衛には、速成課程を終了した新兵に当たらせます。」デクスターは自らの作った書類を読み上げる。


「陸兵って、野蛮人に帝国の土を踏ませるつもり?」アイルはデクスターを睨む。


「準備はしておくに越したことはありません。」


「これで守り切れるのか?」バイルは敵の兵器の性能を信じたのか、不安気に聞く。


「この防衛計画を完全なものにするため陛下に一つ、お願いがあります。」デクスターは頭を下げる。


「何だ?言ってみろ。」


「近衛騎士団をお借りしたいのです。」


「近衛騎士団だと!ふざけるな!」間髪入れずにアイルが叫ぶ。


近衛騎士団は皇帝の護衛を主任務とする皇帝直属の帝国最精鋭の部隊であり、並の兵では束になっても敵わないとされる。騎士団員の顔、年齢、軍歴の全ては秘匿されており、城の中でさえその姿を見たものはいないという。事実、皇帝と頻繁に会議を行う大臣達も近衛騎士団らしき人物を目にしたことはない。そんな彼らが、軍に貸与されるなど前例がない。


「しかし、作戦に必要なのだろう?」バイルはデクスターに問いかける。


「はい。」


「国を守るためだ。仕方がない。許可する。」


「ありがとうございます。」


「陛下!」アイルが皇帝を止めようとするが無駄に終わる。


「アイル。お前の気持ちを分かる。だが、敵を街道で食い止めるか城で食い止めるかなら前者の方が望ましい。」


「内務省より、特に忠誠と能力の高い者を護衛としてお送りしましょうか?」リジーは聞く。


「ああ、そうしてくれ。」


会議は軍の配置に伴う費用、および必要期間を話し合った後、お開きになった。


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