お里帰り 3

ファンデルマ王国


オレンジ色の屋根と白い屋根の建物が川沿いに列をなして続いている。そのうち、一際大きい建物がこの国の王城である。


「陛下、先週より帝国の活動が活発化している件ですがこれといって目ぼしい情報は得られず仕舞いです。」内務卿は申し訳なさそうに言う。


「そうか。何ヵ月か前も駐留軍の配置転換があったばかりだな。今回もそれだろう。どうやら天秤はニホンの側に傾いているらしいな。」


「そのニホンから連絡がありました。明後日の正午、我が国にてアンゴラス帝国掃討作戦を実行するとのことです。」外務卿が不思議なほど上質な紙を手に、報告する。


「とうとうこの時がやってきたか。帝国に降ってはや200年。ようやく我々の悲願を実現することができる。」陛下と呼ばれた男が感慨深そうに言う。


「ニホンが我が国に求めてきた戦闘支援に関してですが、逃亡した帝国兵がどこへ逃げ込んだかの監視を手伝って欲しいとのことです。」


「確かに王都の市街地は入り組んでいるからな。塔の上と市中に人員を割こう。」


「市中にもですか。危険では?」


「民間人に変装させておけばいいだろう。」会議を続けていると廊下の方が騒がしくなり、やがて扉が開かれる。


「ごきげんよう、国王陛下。」在ファンデルマ王国アンゴラス帝国大使であるアデリナがズカズカと歩を進める。


「これは大使殿、アポもなく突然どうされましたかな?」国王は、あからさまに不快な表情を浮かべ言う。


「どうされましたか、ですか。貴国がニホンと通じていることは既に判明しているのですよ。」アデリナは苦笑する。


「何のことか存じ上げませんな。」外務卿は惚けてみせる。


「しらばっくれるつもりなら、かまいません。」アデリナは踵を返し、颯爽と会議室を後にする。


「どういうことでしょうか?」いつもの帝国であれば、逆上し、怒り狂うこと間違いなしだ。こんな対応などありえない。


「ニホンとの戦争で力を無くしているのだろう。」国王はそう言いながらも不自然さを感じるのだった。


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ファンデルマ王国 駐留軍 司令部


司令部の最上階からは王都を一望でき、その眺めはどこを切っても絵画のようだ。司令はパイプを燻らせながら窓外を見つめる。


「司令、最終便が到着いたしました。」


「物資の確認漏れはないな。」


「はい。」


「さて、この美しい眺めとも見納めだな。残るは最後の命令を果たすだけか。」司令はそう言うと、迎えの戦列艦に向かうため長い階段を降り始めるのだった。


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戦列艦 ラーミング


「大使殿の乗艦、完了しました。」


「全艦、出港!」司令が号令を出すと、船は桟橋から離れ始める。


「楽しみですね、司令。」艦長が声をかけるが、司令は顔をしかめる。


「自らの趣向と任務を混同するのは、よろしくないと思うのだが君は違う意見かね?」


「失礼しました。」


「さて、このくらい岸から離れればいいだろう。全艦取り舵一杯。左舷魔導砲発射用意!」積載容量ギリギリまで荷物と人を載せた船は、ゆっくりと旋回を始める。


「左舷魔導砲、発射用意完了!」


「発射!」数百の青白い光が、王都へ向けて突進していく。魔導砲の当たった民家は成す術なく崩れ落ち、火災が発生しているところもある。


「第一射、効果絶大!」


「第二射、発射用意にかかれ!」司令は燃え上がる王都に、何とも言えぬ美しさを感じるのだった!


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ファンデルマ王国 王城


部屋から見える王都には、かつての牧歌的な美しさは微塵も感じられず燃える炎と喧騒が支配している。


「何事だ!」国王はそう言いながら会議室へ向かうが、城のあちこちも被害を受けておりなかなか思うように進めない。やっとの思いで辿り着いた会議室にはすでに大臣達が到着していた。


「帝国艦隊からの砲撃です!」外務卿が伝える。


「もう少しだったと言うのに。」内務卿は失意のあまり机に伏す。


「どこから情報が漏れたのだ?」


「大金を掴まされたに違いない。」


「この中に裏切り者がいるとでも?」


「やめい!犯人探しをしている場合ではない!どうやって対処するかを議論せんかっ!」国王は声を荒らげる


「残念ですが対処など不可能です。」


「だから、それを考えるのが我々の仕事だろ!」


「お逃げください。ニホンが帝国を滅してくれてとしても、王がいなければいいように操られるだけです。」


「そんなことができるか!私は王だ。最後までここにいる責務がある。」国王は衛兵と臣下に引きずられ脱出用の地下通路へと向かったのだった。


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