お里帰り

メタズラン王国


メタズラン王国は、四国より少し小さい自然豊かな国で、他のアンゴラス帝国の衛星国と同様に主要産業は農業だ。国の中央を流れるルーナ川、その両岸に建つ石造りの建築物。それがこの国の王城ユーノス城。その王の間では、男達が難しい顔を浮かべていた。


「陛下、サンドール王国の帝国軍も大方が排除されたようです。」宰相が言う。


「そうか、乗る馬を間違えたな。我が国もニホンへ外交使節団を出すべきだったな。」この国の王、ユーノスは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「あの時点では、ニホンの力を見抜くなど不可能なことでした。」


「帝国による、監視も厳しくなっている。なんとか、外務卿が接触に成功してくれれば…。」


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アンゴラス帝国 帝都キャルツ 帝城


帝城の会議室には朗報が絶え悲報だけがひっきりなしに飛び込んでくるというのがもはや日常化していた。居並ぶメンバーはすっかり憔悴しきっており、彼らの苦悶がうかがえる。


「…よってサンドール王国駐留軍は壊滅。残存部隊は植民地ツェザールへ敗走しました。」軍務相デクスターは報告する。


「とうとう、ニホンが動き出したか。」皇帝、バイルは呟く。


「200隻という艦隊を保持しておきながら成す術なく負けるとは、軍は一体何をしていたのでしょうね。」魔導相アイルが嫌味を飛ばす。


「数の問題ではありません。我が国にもベラルーシェ教国ほどの素晴らしい魔道技術があれば、あんな野蛮人一捻りなのですがね。」


「魔道省に責任転嫁してもらいたくないわね。」アイルは自らの人差し指を噛む。


「ただの事実を申し上げたつもりでしたが、気分を害されたなら謝罪いたします。」デクスターは、すらすらと何も気にせぬ素振りで言う。みるみるアイルの顔が赤くなっていく。そんな空気を察したのか、会議室にノックが響く。


「失礼します。遅れて申し訳ありません。」内務相リジーが書類を携え席へ向かう。


「リジー、また遅刻ですか。重要な会議の度に遅刻している気がしますが。」


「そんな事ありません。アイル大臣の記憶違いでは?大臣の年になると記憶力もさぞ、いや、失礼。」リジーは苦笑しながら言う。


「リジー、私はまだそんな歳では…。」アイルは反論しようとするが、リジーが話し始めその機会を失う。


「野蛮人に紛れ込ませている間者から連絡がありました。まだ離反していない北部衛星国も続々と日本と接触を謀っているとのことでした。」


「そんなことが起きているのに軍は何をしているのでしょう?さっさと取り返すべきです。」しかし、軍務に関して素人のアイルの主張は的外れだ。


「先の戦闘で輸送船の殆どを失いました。食料は今や現地での調達が難しく再派遣にはそれらの補充が必要です。」デクスターが言う。


「なら、いつになったら完成するのかしら?」


「さぁ?」デクスターは首を振る。


「さぁ、って何よ、馬鹿にしてるの?」アイルは既にオークのような表情だ。


「いえ、現在工廠では輸送船の生産は必要最低限しか行っておりませんのでいつになるか…。」その表情に押されたのか、デクスターはしどろもどろに答える。


「はぁ?」アイルが詰め寄る。


「大陸軍、及び駐留軍穴埋めの戦列艦の生産で手一杯です。」


「だったら、北部衛星国群はどうするのよ?むざむざ奪われる気?」


「それについてなのですが…。駐留軍を北部衛星国群より全面撤退させることを検討しています。」


「ふざけてんじゃないわよ。栄光ある帝国が戦わずして逃げるの?」魔力を持たない者への偏見が人一倍強いアイルには、それは我慢ならないことだ。アイルの持つ絶大な量の魔力も手伝って、部屋の体感気温はますます下がっていく。


「大陸軍でも、勝てなかった相手です。このままだと各個撃破され、犬死にです。」デクスターが震えながら言う。


「しかし、ただで立ち去るほど我々もお人好しでもないでしょう?」すっかり怯えたデクスターの代わりにリジーが口を挟む。


「どうするつもり?」


「反逆者どもには、報いを受けてもらわねば。」




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