解放の夢 2

サンドール王国 駐留軍 司令部


司令部の最上階からはヌーヒムノ軍港が見渡せる。帝国の威容を示すかの如く並んでいた戦列艦は、今や一隻たりとも残っていない。


「司令、戦列艦隊が全滅しました!」司令室から、攻撃の様子を監視していた参謀が悲痛な声を上げる。


「なんだと!敵はたった10隻なのだろ!」司令は狼狽える。


「圧倒的な射程距離、命中率、そして連射力を備えているようです。」


「報告では聞いていたが、ここまでだったとは。」


「いかがなさいますか?」


「ここから港まで数kmも離れておらん。おそらく、主要施設は艦砲射撃に曝されることになるだろう。内陸部への撤退を行う。総員退避せよ。」司令部に、砲弾が命中するのはその10秒後だった。


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砲弾が降り注ぐ基地から約5km。第二陸戦隊は、敵の上陸に備え港と王都を結ぶ道に陣地の敷設を行っていた。


自らも土嚢を運んでいた隊長、ジグラートに、通信兵が駆け寄る。


「司令部より、通達!撤退命令です!」


「野蛮人相手に退けというのか!」ジグラートは憤りを露にする。


「しかし、撤退許可でなく命令です。」


「仕方ない、分かった。どこへ、向かえば良い。」


「具体的な指示が出る前に通信が途切れましたが、内陸へ向かえと。」通信士は崩れ果てた司令部を指差す。


「分かった。ツェザール領へ向かおう。あそこなら海に面していないし、僅かだが植民地兵もいる。それに、現地政府に造反されることもない。」



植民地ツェザール アンゼルマの町


現在、ツェザール領は反乱鎮圧の対価としてアンゴラス帝国の植民地となっている。本来、植民地は国という概念のない世界から召還されてきた人々の統治、もしくは効率よく奴隷を産出するために奴隷産出地域にて行われる。現地政府に治安維持やその他の雑務を任せるというのが一番効率が良いからだ。しかし今回、帝国は流出した武器の回収という目的のため、赤字覚悟でツェザール領を植民地として獲得する運びとなった。


アンゴラス帝国の砲撃により、街は殆ど原型をとどめない。そんな中、帝国はめずらしくも無事だったとある石造りの屋敷を徴発し仮の総督府として用いている。


シャンデリアの輝くこの部屋はかつては応接室だったが、現在は総督の執務室となっている。そこに鎮座するのは、前ツェザール駐留軍参謀長、シュービムだ。


「総督、サンドール王国駐留軍より支援要請です。」




「支援、また反乱でも起きたのか?」サンドール王国の兵士と基地要員をそのまま配置転換し、植民地ツェザールという別系統の駐留軍に組み込んだのだ。もとは一つの組織を二等分したため、それぞれの能力は低下している。それに加え、人員の補充の目処はたたず、反乱、引き継ぎ業務により兵は疲弊している。


「いえ、兵士の受け入れ要請です。」


「受け入れ?どういうことだ?」シュービムは予想外の返答に困惑する。


「それについては彼から。」廊下に待機していた、士官がドアから顔を出す。


「失礼します。サンドール王国駐留軍、第三陸戦隊隊長ジグラート少尉です。」


「ジグラート少尉、一体何が起きているのか要領を得ないのだが説明してくれるかね。」


「サンドール王国駐留軍司令部、及び関連施設はニホンの物と思われる巨大船による艦砲射撃により壊滅。よって、帰るところを失った兵達を受け入れて欲しいのです。」


「壊滅だと!」シュービムは思わず声を上げる。


「はい。」ジグラートは静かにうなずく。


「撤退に成功した兵は約2000人。残りの者はおそらく…。」


続けて、ジグラートは戦闘の推移を話し始める。最早戦闘と呼べるかは疑問ではあるが。


「そうか、分かった。受け入れる。さすがに海からこれだけ離れていれば砲撃も受けんだろう。」


この日、サンドール王国駐留軍は壊滅した。戦闘の混乱により魔信による指示を受け取れない兵も多く、たとえ受け取れたとしても撤退場所が決まる前に通信が途切れたため、彼らは国中に散らばることとなる。そして、それは更なる治安悪化をもたらすこととなる。


数日後、植民地ツェザールにサンドール王国駐留軍臨時司令部が設立され、帝国による統治はしばらく続くこととなる。


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