会合

サマワ王国と日本の中間海域


側面に巨大な扉を8つ備えた、日本人から見たら不思議な格好の船が9隻海上に漂っている。竜母に搭載されている竜は、帝国にとって貴重で強力な航空戦力ではあるが、艦自体は対艦戦闘を行うことを想定していないため、砲は艦首の一門しかなく見た目は頼り無さそうに見える。


「間もなく、敵艦隊が竜の航続距離内に入った頃かと…。発艦させますか?」副官が言う。


「いや、まだだ。前衛艦隊の敵艦隊の報と同時に発艦させ、敵の攻撃目標を分散させる。」ディートハルムが答える。


「なるほど。敵の砲の装填の速さは異様でしたからね。幾ら奴等でも空飛ぶ竜に砲を命中させるのには手こずるはずです。これで戦列艦隊が射程距離に到達出来ればよいのですが。」


「だな。しかし楽観は禁物だ。我々は敵の情報を殆んど持っていないのだからな。」


ディートハルムは不安を顔に滲ませながら言う。


「前衛艦隊より連絡!敵の攻撃を受けた。至急援軍を乞う。」突然の連絡に船長室の空気は張りつめる。


「全ての白竜を発艦させよ!」


「了解!銀竜はよろしいのですか?」


「銀竜は待機だ。」


「了解!」


----------------------


護衛艦たかなみ


薄暗く照らされたCICのモニターには、無数の点が表示されている。


「ミサイル全弾命中。しかし、敵艦隊尚も前進中です!」


「4隻減って、204隻か。とてもじゃないが弾薬が足らん。」


「しかし、貨物船を放置して撤退するわけにもいきませんしね。」貨物船は戦闘海域より離脱を始めてはいるが、まだまだ時間がかかりそうだ。


「我々だけならともかく貨物船の足は遅すぎる。在サマワ王国基地からの援軍も間に合うかどうか。」


-----------------------


「飛行物体が敵艦隊より射出されています!」


「対空戦闘用意!短SUM」


「敵艦隊、射程距離内に入りました。」


「竜を出している艦を最優先で狙え!」


「いえ、それが空母型の敵艦は後方で待機しておりそれらの艦だけ主砲の射程距離に入っておりません。」


「敵機20、30、まだまだ増えます!」


「仕方ない。まず敵機を叩く。敵艦隊の排除は後だ!」


「敵艦発砲!」


「まだ、敵の射程距離の2倍はあるはずだぞ?」敵の射程は10kmほどと聞いていた面々は相手の意図を理解できずにいた。発砲された砲が一隻であることも混乱を助長しただろう。


突如として船が揺れ、着弾したことを知らしめる。


「対空レーダーが破損したもようです。!右舷前方が真っ白です。」


「なんだと!」


「発砲したのはあの一隻だけか?」


「そうだと思います。」


「敵の新鋭艦かもしれん。命令を次々と変えてすまんがあの船を狙ってくれ。どちらにせよ対空目標は狙えんだろ。」


「了解しました。」軽い音が響く。すると戦列艦が轟音を響かせ二つに折れる。


「他の船にも攻撃を続けろ。そしておおすみに連絡、我、対空レーダーの破損により対空戦闘が不可能。」


「了解!」




-----------------------


66騎の竜は、その数を減らしながらも雲を突き抜け前進している。


「敵艦隊目視」遠くに大きな灰色の船が2隻見える。それに比べると、帝国の戦列艦は豆粒のようだ。


「ぬぁ!」一機の竜が撃ち落とされる。


隊長は砲身より煙があがるのを見て驚愕する。


「まさか、あの砲は空飛ぶ目標も撃ち落とすことができるというのか!」


「また、発砲です!回避行動を!」


「お前達は知らんだろうが、あれは回避行動を採ろうがとらまいが避けられん。」帝国では下級の兵士には正確な情報が開示されておらず、それが弊害となり現場に支障を及ぼすことも多々ある。


全速力で敵へと猛進するが、一騎、また一騎と竜が落とされる。そして、とうとう残り8と騎というところでようやくか射程距離に入る。


「仲間の仇を討ってやれ!ファイヤーボール発射用意!」


戦死した隊長の代わりに指揮を執っていた副隊長がそう言うゆ否や、小さな砲が火を吹く。


「ヒグゥ!」


「ゴハッ!」五月雨のように放たれる弾は瞬く間に3匹の竜を肉片へと変えるが、すぐに弾が切れてしまう。


「ファイヤーボール発射!」至近距離から放たれたそれは正確に灰色の鉄の塊へと吸い込まれていく。


「くそっ!大して効いてないな。」副隊長が苛立たしげに言う。


「副隊長!敵の小型砲が此方を指向して…ギャッ!」攻撃のため減速していた竜も、再装填を終えたファランクスにより瞬く間に全滅する。


-----------------------


戦列艦は50隻ほど数を減らしながらも前へ前へと進んで来る。最早それは狂気の沙汰としか思えないが、それは確実に護衛艦隊を追い詰めていく。。



「おおすみより連絡、主砲の弾薬が残り僅かとのこと。」


「そんなのこっちも同じだ。応援はまだか!」


「あと30分はかかるとのことです。」CICに陰鬱とした空気が流れる。


「たった2隻で30分持ちこたえろだと!サマワ王国防衛の時もそれで、ひどい目に会ったというのに。船団の状況は?」


「まだ、10kmも離れてません。」


「敵にはレーダーはない。それにこちらの方が若干ではあるが速力が速い。体のいいところで戦闘を切り上げたいのだがな。」司令は暫く熟考する。そして命令を下す。


「敵を引き付け、そのままサマワ王国駐在部隊と合流する。取り舵一杯!」


「船団から離れますがよろしいのですか?」


「ああ、仕方がない。」艦長は自らの判断が正しいのか自問しながら、命令を下す。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る