貴族
サンドール王国 駐留軍司令部
「植民地クレーメンス駐留軍艦隊司令フリート着任した。ディートハルム司令の指揮下に入れと拝命している。」フリートは定型文を肘掛け椅子に座ったまま口にする。両官とも階級は同じ。それに加え、貴族出身のフリートは叩き上げのディートハルムに対し嫌悪感を抱いているのだ。最近になって、能力ある平民もある程度まで出世ができるようにはなったが、差別意識は根強く残っている。
「ようこそサンドール王国へ。ご足労ご苦労様です。」いつものことだとディートハルムは態度のことには触れない。
「ディートハルム司令のことは聞き及んでいる。勇敢にも艦隊を率いて敵と戦い、そして勇敢にも生きた戻って来られたそうですね。いやー、その勇気羨ましいものだ。」
「さて、早速ですが作戦内容の説明に移りましょう。」ディートハルムは気にせずに続ける。
「艦隊を前衛の戦列艦隊、そして後衛の竜母艦隊に分けそして…。」
「少しいいかな?」フリートは説明を遮る。
「如何なさいました?」
「私の乗艦している竜母も後衛になるのかね。」
「はい。」
「それは問題だ。帝国士官たるもの指揮官率先にて敵を叩かんでどうする?」フリートがそんなタイプの指揮官ではないはずだ。ディートハルムは疑問に思う。
「竜母が前に出て何をすると?もう少し頭をお使いになられては如何ですか?」フリートは顔をしかめる。
「私の部下は血気盛んでね、戦いたくてしょうがないようなのだ。私としても彼女の意を汲んでやりたい。」フリートの発言にディートハルムは合点いく
「部下に脅されている訳ではないのですよね。」フリート顔に焦りが見え始める。
「そんなまさか!駐留軍の資金を横領したことも、備蓄の兵糧を横流ししたこともない清廉潔白な私に弱味など…」
「各駐留軍の到着がなぜ異様に遅かったのか、何となく分かったような気がします。」本国の決定した配置替えは本来ならば速やかに行えたはずであったのだ。ただ、本国の間違えは統計上あるものが、どこかに消えているという可能性に至らなかったことに尽きる。
「どういうことだ?今の発言を取り消したまえ!」
「それで気がすむならば取り消しましょう。ところでその血気盛んな軍人とはミール中佐ではないですか。」ディートハルムは先日聞いた名前を出す。
「ああ、そうだ。」
「では、彼女だけ前衛部隊に移しては?」
「おお、そうしてくれるか!」フリートは厄介払いができると考えていることが筒抜けなぐらい、にこやかな笑みを浮かべる。
「本国は、彼女を英雄にしたいようなのですがね。」
「若き女兵士の活躍劇より、活躍の後戦死の方がはえるだろ?」
ディートハルムには、この男は口封じを狙っているなと手に取るように分かる。貴族でさえあれば、こんな無能でも司令になれるのかと帝国の人事事情に不満を抱くのだった。
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