アンディーおじさんの冒険3
サマワ王国 入国管理局
日本と国交を結んで間もない頃、サマワ王国人が母国と同じ感覚で護身用にと小刀やそれに準ずる物の持ち込みが相次いだ。あまりに発生件数多く一々強制送還するには手間がかかる。
そこで日本政府は、サマワ王国の許可を取り、武器類やその他の持ち込みの取り締まり、国内で守らなければいけない法律や交通規則な教育などのために入国管理局の設置を行った。現地職員だけでも業務をこなせるようになった段階でサマワ王国に移管し、この施設も譲渡される予定だ。
アンディーおじさんは長い列に並んでいた。勿論、入国審査待ちの列だ。
「次の方、どうぞ。」サマワ王国人の男が呼び掛ける。その隣には、見馴れぬ肌の色をした男もいる。アンディーおじさんは歩き出る。
「パスポートを拝見いたします。」アンディーおじさんは鞄からそれを取り出す。職員は不思議そうな顔をするが、アンディーおじさんはそれに気付かない振りをする。
「アミル王国のご出身なのですね。」
「ええ、直通便がなくなってしまったようなので。」アンディーおじさんは困った困ったとジェスチャーする。
「ご氏名をどうぞ。」
「アンディー・ラ・ホスタルゲールです。」
「何日のご滞在ですか?」
「2週間ほどの予定です。」
「滞在の目的は何ですか?」
「観光と買い付けが半々といったところです。」
「ご職業は何ですか?」
「商人です。」
「それでは次に荷物の検査を行います。」
「そう言うと職員は金属探知機を取り出す。人数が少ないのでパスポートのチェックと荷物の検査は同じ職員が行う。」
アンディーおじさんは自分の無能を恥じた。列の前に並んでいた人をよく観察すれば金属チェックがあることが分かったはずだ。考え込むあまり周りへの注意が疎かになっていた。エージェントにあってはいけないことだ。生涯現役のつもりだったが、もう私も退役すべき年齢なのかと自問する。
「しまった、家に忘れ物をしてしまった。取りに行ってもいいかな?」変わった肌の色の男がサマワ王国人になにか耳打ちする。そしてサマワ王国人が口を開く。
「なにか見られてはまずい荷物でも?」2人の職員は怪訝な表情を向ける。
「いや、特にないが?」アンディーおじさんはおどけるように言う。
「なら、見せて頂いても構いませんよね。」変な肌の色の職員がアンディーおじさんの荷物に手を伸ばす。
「ガハッ!」アンディーおじさんは職員の鳩尾を蹴り上げ、荷物を持って走り出す。サマワ王国人の職員がオロオロしてる間にかなり距離が空いた。
「待てっ!」異変に気付いた職員が追いかけてくるがもう遅い。アンディーおじさんは走ることが得意なのだ。
入り口でとうせんぼしている意地悪な職員達の顳顬を、走る勢いそのまま殴り付け、アンディーおじさんは街の雑踏へと消えて行った。
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アンディーおじさんの鞄は一見すると普通の鞄に見えるが、それは二重底になっている。そのスペースには通信機、カメラに盗聴機といった知られてはいけない秘密道具が入っている。いかに巧妙に隠されようと金属探知機に太刀打ちできない。それに加え、アンディーおじさんの胸ポケットには拳銃がある。それがばれるともう言い訳はできないだろう。
「さて、これからどうするか。」悲しいことだがアンディーおじさんがブラックリストに登録されてしまったのは確実だろう。アンディーおじさんは少し考えると、また街の雑踏へと消えた。
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ビアンカの酒場
トランスト港より少し離れたところにあるこの酒場は、日本人労働者が使うには少し遠く、主に日本へと向かう旅行者や商人が集まっていた。アンディーおじさんは客の中から自分と似た背格好の人物を探し声をかける。
「貴方は日本に行かれるのですか?」
男は突然話しかけられたことを不思議に思いながらも答える。
「ああ、そうだが?」
「それはよかった。ならついでに買ってきて欲しいものがあるんです。」アンディーおじさんはにこやかに言う。
「ちょっと待った!俺は日本に行くのは初めてでどんな所かも何があるかも分からないし、そんな約束できない。」
「お金ならいくらでも弾みます。」
「そう言われてもなぁ。」男は頭を振る。
「商品価格と別で100000バールというのはいかがです?」
男は目をひんむく。
「本気で言ってるのか!」
「ええ、本気ですよ。」アンディーおじさんは、金貨のつまった財布をチラチラ見せびらかす。
「分かった。なにが欲しいんだ。」
「ディアナというお店で売っている物なのですが…。ああ…。言っても分かりませんよね。家に地図があるのでそれで説明します。私も正直場所をよく覚えていないので。」
アンディーは男の酒代を払い、店を出る。
「あんた、日本に行ったことがあるのか?」男は聞く。
「ええ、しかしその時持ち合わせがなくて、買えなかったことがずっと心残りなんです。」
「俺が言うのも変だが、ならそんな大金払わずにもう一度行けば良いんじゃないのか?」
「日本に行ったことが無い人が優先的に、船の予約が出来るようでそれが叶わないのです。」
「知り合いは、何度も行ったって言ってたがな?」
「役人にコネがあるんでしょうね。羨ましい限りです。」アンディーおじさん達は歩き続ける。いつの間にか人の気配は消え、周囲には誰もいない。
「しかし、結構歩いたぞ?お前の家は…」男は突然静かになる。男の首筋から噴水のように血が吹き出すが、それは一滴たりともアンディーおじさんには掛からない。
「だめですよ。怪しい人について行っては。特にこのような辺境の国ではね。」
アンディーおじさんは男の鞄から目当ての物を取り出す。それが終わるとアンディーおじさんは踵を返し、もと来た道を戻って行った。
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