アンディーおじさんの冒険2

「ふぁーー。」窓からの朝日を浴びアンディーおじさんは大あくびをする。ベッドのせいか体の節々が痛む。窓の外を眺めると遠くに大きな島が見える。この船の足ではあと何時間かかるだろうと考えたとき、再びドアがノックされる。昼には旨いものが食べれることを期待して、アンディーおじさんはドアを開ける。


サマワ王国


あまり栄えていない、しかし寂れているという程でもないブリアナという港町。その食堂ででアンディーおじさんは食事を取っていた。食事はそこまで美味ではないが、船のに比べたら断然うまい。同時に酒場は情報の宝庫だ。それは列強国であろうと蛮国であろうと変わらない


「日本?ああ、この港からは便は出ねーよ。日本の船が入るには水深が浅すぎるみてーでな。」 漁師らしき男が言う。


「そーじゃなければこの店も繁盛したに違い無いってのに」女店主は残念そうな表情を浮かべる。


「そりゃねえな。」酔った男が言う。


「俺もそう思う。」


「なんだい、表出るかい?」女店主は腕捲りをし出す。


「遠慮しときます。」


「俺も。」


「日本行きの船はトランスト港からしか出ないね。こっから馬車でナータリまで向かいな。そこからトランスト港まで行けるらしい。」


「ナータリ?そんなとこ行って、どうするんですかい?畑以外なんもねぇとこですよ。」


「私の親戚がナータリまで荷馬車て麦運ぶ仕事をやってんだが、まぁ、とりあえず行ってみな。」


「ありがとうございます。」アンディーおじさんは少し疑問を感じながら酒場を後にした。


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アンディーおじさんは大きい町へ(サマワ王国基準で)痛む体にむち打ちながら徒歩で向かい、ようやく馬車を捕まえることが出来た。


「ナータリですね。了解しやした。」


「ナータリとはどんなところなんです?」アンディーおじさんは御者に問う。


「一昔前までは、なんもないとこでしたが日本と国交を結んだ後に変わりましてね。」


「そうなんですか。ちなみにどのように?」アンディーおじさんは気になって聞く。


「見てからのお楽しみです。お客さんが顎を外して驚く姿が大好きなんです。」


どうやらこの御者はひねくれ者のようだ。


アンディーおじさんはその後、娘が生まれたとか娘がかわいいとかいう話を到着まで聞かされることとなった。


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私は今、信じられないことを経験している。なんの変哲もない田園風景の中に、鉄道駅があるのだ。それはあり得ないことである。科学文明の象徴である鉄道というものは共和国にしか存在しない。魔力容量の軽少さを知恵で補填し、他列強に勝るとも劣らない文明を築きあげた。それはヒルメラーゼ共和国の誇りである。


「なのに、なぜ?」


技術者が拉致されたのか?それとも金につられて亡命したのか?ありえない。共和国のレーダー網を船がすり抜けるなど。ならば、なぜ…。アンディーおじさんはゆっくりと歩を進める。駅の中は、蛍光灯で照らされ次の電車の発着時刻を電光掲示板で知らせている。


「お客様、乗車券はお持ちでしょうか?」自動改札機はサマワ王国の客には難しかろうということで、駅員が乗車券の発行、回収を行う。


「いえ、買わせていただきたい。」アンディーおじさんはパンパンに財布を取り出す。国からとてつもない額の調査費が出て懐は温かい。惜しいのはこれが自分のお小遣いではないことくらいだ。


「申し訳ありません。本日の分は完売しておりまして…」珍しい乗り物に乗りたいと、貴族や商人が鉄道に乗りたがる。貴族は特別枠が設けられていて優先的に乗車券を買えるが、転売目的のために発売する傍から乗車券は完売する。


「そうですか。仕方ありません。明日来ます。」嘆いてもどうにかなる訳でない。アンディーおじさんはトコトコと来た道を戻った。


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「君達、この辺で宿屋を知らないか?」路肩で遊ぶ子供達にアンディーおじさんは問い掛ける。


「はーい、私の家、宿屋でーす。案内してあげる。」黒髪の少女が言う。


「止めといたほうがいいぜ。こいつの宿屋、とんでもない値段とりやがる。」


「うるさい!そんだけサービスが良いってことよ!」少女は少年の脛を蹴る。そして後ろで踞る少年を無視して続ける。


「家の宿は確かに値段は高いけど、すごいんだから!行きましょう。」少女はアンディーおじさんを無理矢理引っ張り進む。アンディーおじさんは宿がぼったくりなのか、それとも裏で売春でもさせているのかと思っていた。


サマワ王国


常に冷静沈着なアンディーおじさんもその光景には絶句させられた。呆然と立ち尽くすアンディーおじさんの隣では、先程の少女が手品に成功した子供のようにニヤニヤしている。まぁ、子供ではあるのだが。


天井には小振りのシャンデリア。ただのシャンデリアでないようで、蝋燭ではなく電球が嵌まっている。そしてテレビ、冷蔵庫、電気ストーブその他もろもろの家電製品が整えられていた。


「これは…」アンディーおじさんは言葉を発しようとするが言葉にならない。


「これはねぇ…」少女は家電製品の説明をし始める。アンディーおじさんはもちろん家電製品の使い方は知ったものだが。


「あら、シェリー?帰ってたのかい?」奥からエプロン姿の女性が出てくる。


「うん、お客さん連れてきたよ!」シェリーは無い胸を自信ありげに張る。


「ありがとう。良い子だね。」頭を撫でられシェリーは満足そうだ。


「どうです、うちの宿は?」


「変わった道具がたくさんありますね。」


「でしょ、日本から大枚はたいて輸入したんだ。」女主人も自信たっぷりに言う。


「日本とはどのような場所なんですか?」アンディーおじさんは情報収集とばかりに聞く。


「私も行ったことはないからよくは分かんないけど、ものすごい技術力がある国だね。帝国軍を討ち破ったり、こんな道具を作れるくらいにはね。」


アンゴラス帝国が鉄道を敷いてからサマワ王国が独立したのか、独立してから敷かれたのか分からなかったが、どうやら後者のようだ。


「この道具を買ってから珍しい物見たさに客が集まってさ、万々歳だ。」女主人は笑顔で言う。


「じゃあ、あんたの部屋は204号室だ。ご飯ができたら呼ぶからね。」


アンディーおじさんは自室に入るなり、ソファーに深く腰かける。窓からは幾つもの並ぶコンテナと作業機械が目に入る。理解できない目の前の光景にアンディーおじさんは深く溜め息を吐いた。




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「申し訳ありません。本日の乗車券は完売しました。」朝食を食べ、荷物をまとめ、今日こそはと再び駅へと赴いたが、アンディーおじさんが聴いたのは昨日と同じ答えだった。


「そんな、まだ朝ですよ!」


「6時に並ばないと、手に入らない状況でして。」


アンディーおじさんはガックリと項垂れる。そうしているとクイクイと袖を引っ張られる。


「これはシェリーちゃん、どうしたのかな?」シェリーは懐から紙を取り出す。


「おじさんが欲しいのはこれ?」乗車券をヒラヒラ見せびらかす。


「そうだとも。おじさんに譲ってくれないか?」


「いいよ、10000バールでならね。」ちなみに、10000バールとは平均的な家庭の収入3ヶ月分に匹敵する額である。


「少し高いような気がするが?もう少し安くならないか?」いくら懐が温かいとはいえ、財布の大きさは限られている。


「嫌ならいいよ。」笑顔でそう言ってくるあたり、流石は商人の子だなと思う。


「分かった。言い値で買おう。」


「やったー♪商談成立ね。」


そう言うとアンディーおじさんは懐より金貨を取り出す。ごっそりと。財布が一気に半分くらいの重さになり、先行きが不安になった。


「帰りの船賃が尽きることは避けたいのだかなぁ。」


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幾つものコンテナが連なる貨物列車。その一番後に1両だけ設けられた客車でアンディーおじさんは考え込む。これほどの貨物を引く気動車の出力。共和国の物より大きいかもしれない。しかし揺れは激しく速度も遅い。おまけに駆動音が大きい。技術力の限界を感じさせる。流れていく景色には目も暮れず、ただただひたすら考え込む。


「間もなく、トランスト港前駅、トランスト港前駅です。お降りの方はお忘れ物にご注意してください。お出口は左側です。」


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目の前には、近代的な港、そして金属製の貨物船が行き来していた。遠くには軍艦らしき船が4隻停泊しているのも見える。どうやら回転砲塔が採用されているようだ。砲のサイズは小さくミサイルは見当たらない。


「やはり、技術者の亡命が有力か。」そうでなければこの片田舎の国が鉄道を敷けるはずがない。日本が積極的に雇いいれているのだろう。しかし、アンディーおじさんはひとつの事実を思い出す。


「いや、確かあの国は数ヵ月前に召還されたばかりだ。そんな工作できる時間はないはず。」諜報員であるアンディーおじさんは、その大変さをよく知っている。列強に入国し、欲しい人材に当たりをつけ、そして連れていく。そこから鉄道や機械を作り始めても、完成するのは早くて数年後だろう。


アンディーおじさんは、頭痛を我慢しながら埠頭へ向け歩いて行く。

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