アンディーおじさんの冒険

アンディーの出生地はアミル王国ではない。それどころかアンゴラス帝国圏でもない。アンディーはヒルメラーゼ共和国で生を受けた。先天性魔力欠乏症候群に侵されたアンディーは、親にも捨てられ幼少期より心無い差別を受けてきた。しかし、彼はそんな周囲の人々を見返そうとひたすら勉学に励み、軍学校へと進み、そして諜報員というエリート職を得ることに至った。魔力が無い者の方が現地人と馴染みやすいというのもあっただろうが。それ以来、数十年諜報員として働いている。


ヒルメラーゼ共和国の石油精製施設のあるアミル王国。そこで不穏な動きがあれば本国へ伝える事が彼の任務である。いや、あった。


本国への定期連絡と休暇のため、一時任務から外れていたアンディーは王国へ新な任務と共にとんぼ返りする羽目になった。そしてアンディーが見たものは、アンゴラス帝国の植民地であったはずのアミル王国が独立国家になっているというあり得ない光景だった。話を聞いていくと、当初謎に包まれていた石油精製所からの救助要請の原因が日本にあるとすぐに判明した。そして今にいたる。


「ここから日本への船が出ると聞いたのですが?」


「いや、今は出んよ。」


「いつならでますか?」


「さぁな。」


「それでは困ります。教えていただけませんか?」アンディーは男に煙草を渡す。


「日本の商船が帝国に沈められたみたいでな、貨物船はともかく客船の数はめっきりだ。」


「どうにかしていく方法はありませんか?」


「サマワ王国は、日本に一番近いからなそこからなら船が出てるんじゃないか?保証は出来んけどな。」


「ありがとうございます。ちなみにどの船に乗って行けば?」


男はマストが傾き、所々苔が生えているまるで幽霊船のような船を指差した。


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客船アビー号 一等客室


「はぁ。」物置小屋のような狭い船倉は信じられないことに一等客室とのことだ。きれい好きのアンディーおじさんとしてはたまったものじゃない。布の破れたソファーで項垂れているとノックが響く。


「お食事をお持ちしました。」アンディーは今にも壊れそうで、もはや何のために付いているのか分からない鍵を開ける。


船員が持ってきたのは乾いたパン2つと水。それだけだ。


「オプションで食事を追加できないのかね?」アンディーは問いかける。


「申し訳ありません、そのようなサービスはやっていません。」


アンディーは黙ってトレイを受け取る。


「そうか、分かった。」残念だが仕方がない。アンディーおじさんは分別は心得ているのだ。文句を言ってもしかたがない。


「ただ、沈みさえしてくれなければそれでいい。」アンディーはそう言うとパンにかぶりついた。

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