アンディーおじさんの冒険4

入国管理局


「検査は完了です。ご協力ありがとうございました。次の便の出港は10時です。お間違えや乗り遅れにご注意ください。」


アンディーおじさんにとって変装は十八番だ。髭を剃り、髪を染めるだけでなく、話し方や僅かな癖、姿勢や歩き方まで真似出来る。それを見破れる人はほとんどいないだろう。昨日アンディーおじさんに蹴られた職員がパスポートを返す。それを受け取りゲートへと向かう。機械類や武器は全て埋めてきた。アンディーおじさんは愛銃が傍にいないことに少し寂しさを覚えたのだった。




客船 にっぽん丸


「おお、これは!」飛鳥Ⅱほどの大きさはないが、それでも日本有数の豪華客船の姿にアンディーおじさんは舌を巻く。日本への旅行客のおよそ半分が貴族だということで、内装や設備の整った船を用いている。




「辺境の国がこんなものを…。信じられんな。」




アンディーおじさんは巡回している船員を見つけ、話しかける。




「立派な船ですね。」




「ありがとうございます。」船員は照れ臭そうに言う。




「どうやってこんな大きな船を作れるような技術力を、日本は手に入れたのですか?」アンディーおじさんは探りを入れてみる。




船員は苦笑いし、困ったような顔をする。


「日々の研究でしょうか?」そして何とか答えを捻り出す。




「研究?」




「はい。日本の技術は科学という学問に裏打ちされ発展してきました。」




「そうなのですか。ちなみにどれくらいの前からその学問は発展したのですか?」




「150年だったと思います。」




アンディーおじさんは安堵する。ある程度の科学力はあるのだろう。しかしそのくらいの年月しか経っていないなら、共和国の方が上である。アンディーおじさんは礼を言い、自室へと向かうのだった。




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貨物船や護衛の軍艦と共に出港して暫くが経った。船足は遅い。備え付けの図書館はなく、今まで会った乗客も日本は初めてだということでめぼしい情報はない。気分を変えるため船内を散策するのも悪くはない。活力溢れるアンディーおじさんはもらったパンフレット片手に廊下へ出る。




「ふぁ~~~」大海原の見える大浴場でアンディーおじさんはくつろいでいた。任務中は風呂に入れることが少ない。拳銃やナイフを風呂に持ち込むわけにもいかないし、ましてや脱衣場に置いておくなんてこともできない。各部屋に浴室が付いている宿なんてものはなかなかない。しかし、今は大事な機械も武器も持っていない。久しぶりの入浴を堪能できる。パンフレットを流し読みしたが、この船はスポーツ施設が充実しているらしい。なんでこんな海の上で運動をせねばならないのだろう?船の上でくらいゆっくりすればいいのに。


「しかし、シャワーまであるとは驚いたな。」国のためなら泥まみれにでもなるアンディーおじさんだが、本来きれい好きなのだ。久しぶりの文明の恩恵を時間をかけ、ゆっくりと味わうのだった。




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アンディーおじさんは優雅にレストランで美食を堪能していた。数種類のソースに柔らかなフィレ肉をつけ、それを食す。


「う~ん。うまい!」本国でもこれほどの料理はそうそうお目にかかれないだろう。本当は酒があれば文句なしだが、アンディーおじさんは真面目な文明人である。任務中に飲酒などしない。まぁ、情報収集のために酒場で飲むのは例外ではあるが。そこで、アンディーおじさんは気付く。周りには酒を飲みながら料理を食べる客ばかりだということに。やれやれ、酒を頼まないことがかえって目立ってしまう。これは良くない。諜報員というものは目立ってはいけないのだ。


アンディーおじさんはウェイターを呼びつけた。


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