連合艦隊

サマワ王国より400km南


アンゴラス帝国 大陸軍第三艦隊旗艦 ローレンス


「何と壮観なのでしょうか。」艦長が言う。


「いくら敵がヒルメラーゼから武器を輸入したとしても、このかずだ。簡単に捻り潰せる。」艦隊司令エセルバードが言う。


「まるでヒルメラーゼの兵器の方が強いみたいな言い方ですね?」後ろから、食事を運んできた下司官が言う。


「まさか、そんなことはあり得んよ。ご苦労だったな。」誤魔化すように


「はぁ…。それでは失礼します。」ドアが閉まるのを確認し、司令が再び話し出す。


「全く、やりにくいことこの上ない。」


「同感です。」


軍の中でも高官にしか、帝国と共和国の技術力の差は知らされていない。それどころか帝国の方が上だと思っている。


「こんなことで戦争ができるのだろうか?」ため息を吐く司令の遥か上。竜騎士ですら目視できないほどの上空の機械仕掛けの鳥に誰も気づくことができなかった。


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サマワ王国より南50kmの海域


第一護衛艦隊群 旗艦いずも


「やっぱり凄いですね!」航海士が隣を往く米軍空母ドナルドレーガンを見て言う。その周りには一隻千億円するイージス艦が10隻も張り付いている。


「だが、我々も負けてはない。」この艦隊は第一、第二護衛艦隊群、それに地方隊3つ、そして潜水艦を擁する46隻の日本艦隊。そして、空母1、イージス巡洋艦3、イージス駆逐艦7の11隻の米軍艦隊、計57隻の連合だ。


「司令、米軍より伝達です。哨戒機が航行中の敵艦隊の第一陣、900隻が400km南、第二陣300隻を500km南で発見したとのことです。。こちらが写真です。」


「以前に見たのと少し違うな。しかし、この旗は間違いなく帝国のものだ。米軍に第二陣の艦隊を優先的に叩くよう要請しろ。本艦からも戦闘機を出す。」


「発艦用意!甲板上の乗組員は速やかに待避せよ。」


「現在、南の風、3m。発艦に支障ありせん。」


「第一航空隊、出撃せよ!」


垂直に戦闘機が浮き上がったかと思うと、一瞬で遥か彼方へ飛び去って行った。




大陸軍第三艦隊旗艦 ローレンス


「司令、哨戒中の白竜が次々消息を絶っております。」


「なんだと!」司令エセルバードは苛立たしげに言う。


「全艦に伝達!戦闘用意!赤竜を全て発艦させよ!」


船から離れた竜は大空にポツポツと模様を作る。それはやがて空を覆い尽くすのだった。


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サマワ王国より南 320kmの海域


アンゴラス帝国の航空戦力の主力たる赤竜は、魔方陣内で白竜に強制的に魔力を注入し、寿命と引き換えに圧倒的な速度と強靭さを得た魔導生物である。しかしコストや耐用年数、それに加え操縦の難しさから大陸軍にのみ限定配備されている。そんな赤竜の竜騎士は、帝国内全ての竜騎士にとって羨望と嫉妬の対象である。そんなエリート達を束ねる竜騎士隊長、アールグベルクは風切音に負けぬよう声を張り上げる。


「聞けっ!既に哨戒の白竜は撃墜されているだろう!敵を蛮族と侮るなかれ。列強国と同等だと思え!」


「敵を侮ってはいけないことは分かっていますが、心配しすぎですよ隊長。いくら敵が兵器を輸入したからといって練度はそう簡単に上がるものではありません。特に航空戦力の場合は。 」


「全然分かっておらん。ヒルメラーゼ共和国の連中が武器の輸出だけで納得するとは限らんだろう。いや、今まで重ねた敗北を鑑みると…」隊長は唸る。


「まさか、義勇兵の派遣を!」


「可能性の話だ。根拠はない。お喋りははここまでだ。全騎広域急襲陣形、速度を突入速度へ上げろ!」


「はっ!」赤い竜が速度を上げ、幾つもの三角形を作る。その手際の美しさは、この世界で誰も真似することはできないと、彼らは思っていた。




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サマワ王国より南190kmの海域


連合艦隊 第一次攻撃隊


40機もの最新鋭の戦闘機が編隊を組み空を往く。その統制は赤竜達が霞むほどである。


「レーダーに反応、数900!」


「なんて数だ。信じられんな。」パイロット達はレーダーに映る白い点の数に愕然とする


「敵航空戦力と思われる機影900を確認。攻撃許可を。」


「攻撃を許可する。」


「了解。目標、敵航空部隊、対空ミサイル撃て!」白い煙を引き、160発のミサイルは敵に食らいつくために大空を駆けて行った。




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サマワ王国より50kmの海域


戦闘機とのデータリンクにより、敵の位置と速度は正確に本隊へと伝わっている。


「対空戦闘用意!SAM撃て。」


対艦ミサイルに比べ、対空ミサイルのストックはまだ十分に残っている。


50を優に越える船からも、光の矢が放たれた。




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灰色の雲を突き抜けながら、赤竜は敵を討ち滅ぼさんために空を突き進む。


「隊長、間もなく哨戒の白竜が消息を絶った海域です。」


「警戒を密にしろ。」竜騎士全体に、自然と緊張が走る。冷や汗が首を伝う感触が不安を加速させる。


「前方に異常、何かが向かってきます!」最前列の竜騎士が叫ぶ。


「小隊ごとに散開!ファイヤーストリーム発射用意!」竜を御しながら隊長は指示する。


「撃っあ!」前方で爆発が起こり、衝撃波が竜騎士達を襲う。


「回避、回避っぐぁ!」


「離れろ!爆発に巻き込ま…」


「撃ち落とせ、撃ち落とすんだ!」


混線した魔信を聞きながら隊長は呆然と立ち竦み帝国の国力と技術力の象徴である赤竜がまるで蝿のように成す術なく落とされる様を眺めていた。苦し紛れに発射されたファイヤーストリームは当たる気配すらない。


「第5中隊、損耗率80%!」


「第12小隊、壊滅!」


「敵、第3波を確認!」


次々ともたらされる絶望的な報告によって、隊長の意識は戻された。娘にもう一度会うためにも、こんなところで死ぬわけにはいかない。たとえ名誉を失うことになっても。


「果たしてあの攻撃は私達に対してのものなのだろうか?」


「隊長?そうに決まっているではありませんか。お気持ちは分かりますが、正気に戻ってください。」


隊長の目線は、パラシュートで降下する竜騎士と下の無人島に注がれていた。


「赤竜は世界一強いと嘘をついたのは帝国だ。無駄死にするぐらいならば…」隊長は息を吸い込む。


「奴等が狙っているのは竜だけだ。全騎、竜を放棄し無人島へパラシュート降下を行え!」


「隊長!何をおっしゃられるのですか!敵前逃亡は死刑ですよ。アンゴラス帝国兵たるもの最後の最後まで…」


「では、さらばだ。下で会おう。」隊長はそう言うなり竜から飛び降りる。


「ならば、貴方は最早隊長でも帝国兵でもない。ただの裏切り者だ。」副長の赤竜の口が赤く輝く。しかし、そこから火が放たれることはなかった。副隊長騎が煙に包まれたからだ。爆煙より飛び出して来たのは、彼の左手と原型をとどめない肉の塊だけであった。主を失った竜は謎の敵から逃れようと右往左往していたが、やがて空には雲だけが優雅に浮かぶようになった。

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