合衆国

サラマントル王国沖40km


日本とアンゴラス帝国本土のちょうど中間に位置するサラマントル王国は、帝国とその衛星国や植民地を結ぶ貿易船の補給地点となっている。アミル王国を解放した第八艦隊は、補給船により補給を済ませ、同じく解放のためサラマントル王国に向かっていた。




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第八艦隊 旗艦しまかぜ


「これが終われば、とうとう帰れますね。」艦長が言う。


「もう、帰るつもりか?まだ任務の半分しか達成しておらんというのに。気を引き締めんか!」司令が叱咤する。


「失礼しました。」


艦橋は気まずい空気に包まれる。しかし、それはすぐに破られることとなった。


「敵艦隊を確認しました!数…」レーダー管制員が叫ぶ。


「どうした?早く言わんか!」


「数数百!もしくは千以上!」


「なんだと!」司令は驚愕する。


「想定される戦力は50隻程度とありましたのに。」


「しかたない。撤退だ。とてもじゃないがミサイルが足りん。」


「了解!」




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日本国 首相官邸 危機管理センター


「本日午後5時30分、サラマントル王国解放の任務に従事していた第八艦隊は1200隻のアンゴラス帝国のものと思われる艦隊を確認しました。現在、補給艦を帰投させ敵艦隊の監視にあたらせています。敵艦隊はサラマントル王国で補給中とのことです。」防衛相は言う。


「武器は足りるのか?」総理は聞く。


「海上自衛隊は、度重なる任務で弾薬を消耗しておりもうストックはほとんどありません。呼び戻している艦隊と合わせても、対艦ミサイルは200にも及ばないでしょう。」


「航空自衛隊も同じです。せめて、ミサイルの先行量産が間に合えば…」


「陸上自衛隊の対艦ミサイルの配備数は少なすぎます。ヘリ搭載の艦に使用できる兵器は両自衛隊と同じく弾薬は残り僅かです。」


「仕方ない。彼らの要求を呑む他あるまい。官房長、電話を掛けてくれ。」総理は紙を手渡し言う。


「本当によろしいのですか?」


「国民の命には換えられん。」




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旧アメリカ大使館


本国の消失に伴い、ほとんどの大使館では、日本国籍の取得と引き換えに立ち退きを迫られたが、アメリカ大使館はそれを拒否していた。


「総理、ようやくお電話を頂けてうれしいよ!何度かけても忙しい忙しいの一点張りで、まるでデートを断られるような気分だったよ!ハッハッハ!」陽気に笑うのは元アメリカ大使マイルズだ。


「ええ、分かりました。今から行きましょう!」マイルズは笑顔で電話を切った。


「車を出してくれ。」


「どこへ行かれるのですか?」


「首相官邸だ。」


日本国 首相官邸


「なるほど、それで我々に力になってほしいと?」アメリカ大使マイルズはにこやかに言う。


「ええ。その通りです。」首相は言う。


「それで、私たちは報酬として何を頂けるのかな?ミスター安田


。」


「参加した兵に3000万円を支給すると同時に、自衛隊で雇用と言うのはいかがです?」


「ハッハッハ!面白い冗談だ。ミスター安田。知っているだろう。我々の望むものはただひとつ。新天地だよ。」


旧アメリカ大使館はアメリカ復活を熱望している。幾度となくそれを伝えてきたが、アンゴラス帝国との戦闘を理由に回答を延期してきた。


「総理…。」外務相は総理を見つめる。


「アンゴラス帝国との講話条件に島の割譲を認めさせ、それをお譲りするという事ではいかがです?」この世界にアメリカが復活するということは、日本が持つ技術的アドバンテージが激減するということを意味する。しかし、背に腹は変えられない。


「素晴らしい条件だが、まだ足らない所がある。」


「何でしょうか?」陽気な口調にうんざりしながら総理は聞く。


「一つは島の大きさだよ。小島を与えられては叶わないからね。5千平方キロメートルは欲しいね。それと武器弾薬、そして石油資源の定期的な輸出。そして、開拓から5年間の経済的支援だ。年に1000億は必要だろう。」


あまりにも欲の張った主張に会議室の空気はよどむ。総理が口を開く。


「大使、ならばこちからも条件を付け加えます。佐世保港に停泊中の空母とイージス艦3隻をいただきたい。」


「何をおっしゃられる。あれはアメリカの宝だよ、ミスター安田。そう簡単にあげられるわけないじゃないか。我々の協力がなければ、大艦隊を食い止められないのはわかっているはずだろう。何人の日本国民が不幸な目に遭うことか。」


「その中には何人のアメリカ国民がいるのでしょうかね。」日本に観光に来たきり、帰れなくなったアメリカ国民は7万人人にのぼる。その事は双方ともよく知っている事実だ。


「大使、日本が滅ぶときにはアメリカ復活の夢も消える。我々は運命共同体なのですよ。貴方達は日本を守らざるを得ない。」総理が言う。


「クッククッ、プハハハハ!」大使は突然笑いだす。


「何かおかしいことでも?」


「日本も言うことを言うようになったじゃないか。ただ、その条件では空母はやれないな。空母を譲るかわり、日本は10年以内に軽空母作りをアメリカ合衆国に引き渡す。これでどうだ?」


「では、交渉成立ですね。」


総理は慣れない作り笑いを浮かべマイルズは握手を交わすのだった。




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