出撃

アンゴラス帝国 帝都キャルツ


「徴兵検査をお受けのかたは、召集票を持ってお並びください。」長蛇の列に幾人もの若者が並ぶ。その列は、軍務局から乗り合いゴーレムのターミナルまで続いている。若者達の顔は誇らしげなものから死んだような目をしているものまでまちまちだ。


アンゴラス帝国の総人口のうち、70億は二等市民(衛星国国民からの労働者)や三等市民(奴隷階級)が占め本国人は15億人しかいない。長年の平和により兵員は減少傾向にあり、その数を280万に減らしている。しかし、それは昨日までの話。現在、徴兵と武器の生産が急ピッチで行われている。


「全く、とんだ貧乏くじを引いたもんだぜ。」列に並ぶ無精髭が目立つ男が言う。


「折角30年のローンを組んでマイホームを手に入れたってのに。」


「そりゃ災難だな。」


「日本との戦争に放り出されるならまだましだけどな。」


「ああ、魔法を使えない奴らを殺すのは構わないが共和国民となると罪悪感がな…」


「全くだ。俺達の訓練が終わる頃にはもう日本との戦争は終わってるだろうな。」


彼らは政府の長年のプロパガンダのせいで、負けることをなど想像もしなかった。




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アンゴラス帝国 帝都キャルツ 王城


重々しい面々が並ぶ会議室の中、皇帝バイルは指で机を叩き苛立ちを露にしていた。


「遅い、遅すぎる。」軍務相デクスターから「新しい報告が入ったので、詳細確認のため会議に遅刻する」と連絡が入ってからはや一時間。ヒルメラーゼ共和国との戦争を主題とするこの会議は軍務相なしでは進められない。いつの間にか無くなっていた紅茶のおかわりを用意させようとベルを鳴らそうとしたその時、ドアが静かにノックされる。


「待っていたぞ、早く入れ!」バイルが剣呑な口調で言う。。


「申し訳ありません。」扉から現れたのは紅茶とスコーンを盆に載せたメイドだった。メイドは震えながらバイルに潤んだ瞳を向ける。


「いや、お前に言ったんじゃなくてだな…」


「お待たせいたしました!遅れてしまい申し訳ありま…」ようやくやって来たデクスターは、泣き出したメイドと申し訳なさそうに困った顔をしている君主を見比べる。


「貴方のせいですよ」魔導相アイルが言う。


「えっと?何がでしょうか?」デクスターは困惑するのだった。




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「本日は会議に遅れてしまい申し訳ありませんでした。しかし、良い報告を持ってまいりました。大陸軍第三艦隊の出撃用意が完了したとのことです。」デクスターは誇らしげに言う。


「遅かったですわね。」魔導相アイルが言う。


「どのような作戦でやるつもりだ?」内務相、リジーが問う。


「主力として、大陸軍90のガイア級竜母、700のヘパイトス級戦列艦、20のローレンス級戦列艦を出撃させます。上陸隊は、ミネルバ級輸送艦10、ネメア級輸送艦20、及び接収した民間船200、その護衛としてガイア級竜母10ヘパイトス級戦列艦80で編成致します。」


「原住民は数だけは多いと衛星国、いや、今は愚かな裏切り者達の国の密偵から伝わっていますわ。上陸部隊の数がたりるとは思いませんわね。」とアイル。


「ご心配なく。かねては床が抜けるとのことで、戦闘ゴーレムを輸送できませんでしたが、ミネルバ級輸送艦には戦闘ゴーレムを搭載可能です。各艦にG-141を搭載しており、野蛮人がどれだけ束になってかかろうとも無意味です。しかし、ミネルバ級は4年も前から配備が始まっているのですが、国の重鎮で知らない人がいるとは。ああ、失礼。アイル様は研究で忙しいですものね。」


アイルは舌打ちをする。


「皇帝陛下。」デクスターはバイルを見やる。


「作戦を許可する。必ず成功させよ!」威信に溢れる声が狭い部屋にこだまする。


「ははっ!」


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