不和

アンゴラス帝国 帝都 キャルツ


街灯のか細い灯りが曇天の帝都を照らす。その中で、魔導光がふんだんに使われる王城は光を反射し輝いて見える。


「先の国境侵犯において、一部部隊が無断で国境侵犯をしたことについてお詫び申し上げます。後の対応については今後、協議していく予定です。」在アンゴラス帝国ヒルメラーゼ大使、バラルーサが言う。


「今回の戦闘においてアンゴラス帝国は50隻、約3000の兵を失っています。相応の対応をお願いしたいものです。」外務相ケニスは言う。


「しかし、こちらとて9隻の船と3500人の兵を失っているのです。国民感情のこともありますし、貴方がいうところの相応の対応を取れることは保証しかねます。」とバラルーサ。


「お待ち下さい。我々が轟沈した貴国の船は4隻のはずです。水増ししないでいただきたい。」軍務相、デクスターが言う。


「水増しなどしておりません。戻って来たのは旗艦一隻だけでした。」


「そんなはずありません!」


「一度目の戦闘で4隻、2度目の戦闘で5隻沈みました。生存者の証言もとれています。鎖国で外貨獲得が難しいからといってこのような手段に訴えるとは。少々民度を疑わざるを得ませんね。」ヒルメラーゼ共和国の大多数の国民は、アンゴラス帝国を格下だと思っている。外交官とは言え、それは同じだ。


「なんだと!」魔導相アルクが言う。


「戦闘は一度しか起こっていないはずですが…」デクスターが言う。


「もしよろしければ、2度目の戦闘の経過を教えていただけませんか?」ケニスが聞く。


バラルーサは同席している駐在武官と耳打ちし合い、前に向きなおす。


「構いません。」バラルーサは深く息を吐き、語り出す。


「17時23分、未知の非行物体を1機を探知。これを撃墜。同30分ミサイル6機を探知、同35分ミサイルが命中し5隻が轟沈に至ります。」


「失礼、ミサイルとはなんでしょうか?」デクスターが言う。


「とぼけないでいただきたい。猿真似の得意な貴国がまた真似をしたのでしょう。」


「いえ、本当に分からないのです。」


バラルーサはため息を吐き言う。


「丸い円柱状の、敵を追尾する兵器ですが?」


「あの、それはもしかして尾から光を出しませんか?」何かが繋がったと感じたデクスターがすかさず聞く。


「出しますが、それがどうかしましたか?」


会議室が静まりかえる。


「どうされました?」


「なぜです。なぜ日本に軍事支援を!」内務相、リジーが叫ぶ。


「油田が目的か?」アルクが言う。


「お待ち下さい。何を仰っているのか理解しかねます。」


「この男を城から放り出せ!」国王バイルが言う。


「何をする!外交問題になるぞ!」扉から衛兵が現れ、バラルーサを引きずり、運んでいく。


「まさか、ヒルメラーゼが日本に軍事支援をしていたとは。辺境の部隊では勝てないわけです。」再びび静かになった部屋でデクスターが言う。


「勝てるのか?」バイルが問う。


「ヒルメラーゼは輸出した艦隊が自らの脅威にならぬよう、少量しか輸出していないはずです。それに加え、たとえ多数の艦隊が輸出されていようとも、帝国本土を攻撃できるだけの陸上部隊、補給物品の輸送は困難でしょう。しかし、ヒルメラーゼの直接介入を考慮すると不安が残ります。戦時体制への移行と戦力の増強が必要かと。」


「分かった。許可する。ヒルメラーゼの奇襲に備えつつ、日本を早急に攻略せよ!」バイルは眉間に皺を寄せ言うのだった。


アンゴラス帝国 首都キャルツ


政府機関や銀行、百貨店などが軒を連ねる大通りはいつも活気に満ちているが、今日は一段と騒がしい。ホレイシオ商会会長、ハリソン・ホレイシオは、人混みが嫌いであるが、政府からの突然の呼び出しのため渋々と歩みを進める。


「号外!号外!」新聞の売り子が叫んでいる。ホレイシオは記事が気になり、金を払いそれを1刊もらう。


「なんだと!」見出しには、「アンゴラス帝国政府が戦時特別令を発令。ヒルメラーゼ共和国と戦争になるのか?」と書かれている。すかさず読み進める。




近頃、アンゴラス帝国駐留軍と戦闘を重ねている日本。その強さの秘密が政府筋より明らかとなった。ヒルメラーゼ共和国が日本に軍事支援をしていたのだ。いかに精強をほこるアンゴラス帝国軍とはいえ、植民地や衛星国に駐留している戦力は僅かであるため遅れをとったが、大陸軍の出征で片がつくと思われる。。


先のアンゴラス、ヒルメラーゼ共和国海戦を発端とする国境紛争でヒルメラーゼ共和国は本格的な介入を開始したと考えられる。ヒルメラーゼ共和国は全石油輸入の15%を帝国に依存しており、貴重な外貨獲得源となっている。現在、油田は卑劣にも奇襲攻撃を行った日本、及び反旗を翻した現地政府により占拠されている。日本とヒルメラーゼ共和国が繋がっていることは明確である。




ホレイシオは二の句を告ぐことができなかった。


基本的に帝国は鎖国政策を執っており、多くの国民は国外のことをあまり知らない。しかし、ホレイシオ商会の会長ともなると話は変わってくる。


「勝てるわけがない。」ホレイシオの呟きは喧騒にかき消された。




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薄暗い会議室の中には、軍人だけでなく経済界のそうそうたる面々が揃っていた。ホレイシオはたった一つ残っている席へ腰を掛ける。ご丁寧に下座を残していてくれたらしい。


「いやいや、お待たせして申し訳ない。」慇懃に笑みを浮かべホレイシオは言う。


「いえ、5分前とはいえ間に合っていますし問題はありません。」軍人が言う。


「ご存知の方も多いと思われますが、今日午前11時戦時特別令が発令されました。現時点を持って、皆様の商会がお持ちの船、ゴーレムを買収させていただきます。」


「輸送業を営んでいるものとしては、困りますな。」アルフレッド商会会長、アルフが言う。


「私も同意見です。経済にどれだけの損害を与えるのか少しは考慮して頂きたい。」ホレイシオが言う。


「もちろん船に損害が出た場合、戦争終結後国庫より費用は補填させていただきます。」


「ヒルメラーゼ共和国と戦争になるのだろう?列強対列強の戦いだ。何年続く?その間我々は何で飯食えばいいのだね。」アルフが言う。


「貴方達の考えはどうであれ、これは決定事項です。覆ることはありません。」軍人は淡々と言葉を紡ぐ。


「何て傲慢な!」


「我々を誰だと思っている!失礼だぞ!」


「こんなことになるのも政府の怠慢のせいじゃないか!」


「もしも、拒否なさるなら戦時特別法第32条に基づき逮捕します。」


「くそっ!」


総動員は、国中の商人達の反発を招いた。

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