記者会見

日本国 首相官邸


黒いソファーで取り囲まれた机の前に、自衛隊幹部が立っている。


「作戦の第一段階は、おおむね成功に終わりました。補給艦による弾薬補充後、次の国へ向かわせる予定です。」


「予想よりも犠牲が大きかったな。」総理は言う。


「市街地に立て込もられた事が原因かと。」


「石油精製所の作業員はアンゴラス帝国兵でも国民でもないのは事実なのか?」総務相が言う。


「確保した、作業員によるとヒルメラーゼ共和国がアンゴラス帝国より借り受けた土地だということです。」


「ややこしくなってきたな。これ以上敵は増やしたくはない。」総理が言う。


「全くです。尋問の結果、軍人でなく民間企業の会社員だと名乗っているようです。いい印象は持たれないでしょう。」


「しかし、まさか石油精製所があったとは驚きです。すぐに、利権の獲得へ向け動き出すつもりです。」外務相が言う。


「精製所があるということは魔法というものでなく、科学文明の国家という可能性がありますね。」総務相が言う。


「次こそ平和裏に国交を築きたいものだ。」総理は未来の不安を憂うのだった。




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首相官邸 プレスルーム


幾つものカメラが並べられたこの部屋で、記者がところ狭しとひしめき合っている。


「…。自衛隊に死者が出てしまったことは痛ましいことですが、作戦の第一段階は成功し、第二段階へと移る予定です。以上です」


「では、質疑応答へと入ります。質問のある方は挙手してください。」そして進行役が記者を指名する。


「総理、今回の自衛隊派遣において武装組織の軍事施設意外を攻撃し、民間人が死亡したとの事ですがそれについてどう思われますか。」


「石油精製所の作業員は一部、拳銃を保持し自衛隊に発砲してきたため武装蜂起した民兵と捉えております。」


「では、そこの灰色のスーツの方どうぞ。」


「降伏してきた民間人はどうされるつもりですか。」


「検討中です。」


「答えになってないじゃないですか!」


「質問は一人一つでお願いします。」 質問が次へと移る。


「石油精製所はどうされるつもりですか?」


「この施設は、武装勢力により奪われた土地に建てられた物です。よって現在、それらの土地は現地政府の国有地となっております。政府は現地政府に譲り受けられるように働きかけていくつもりです。」


「自衛隊に死者が出たのは政府の責任ではないかとの声がありますがそれについてはどうお考えですか。」


「自衛隊員が亡くなられたことは痛ましいことですが、その責任は武装勢力にあると考えます。」


「政府に責任はないと?」


「政府に責任があるかどうかは現在統一した見解を持っておりません。」


「それでは、これにて記者会見を終了いたします。」


「総理、待ってください、まだ質問が…」


「総理、総理!」総理は足早に壇上から姿を消したのだった。


ーーーーーー

ヒルメラーゼ共和国 大統領府


黒煙をあげる工場で埋め尽くされる中、ぽつんとある高層ビル。現在、デモ隊に完全包囲されているヒルメラーゼ共和国大統領府である。


「まさか、アンゴラス相手に旗艦を残し全滅するとは。情けないことだ。怠慢が過ぎるのでは?」内務相デレスターレが言う。


「構造上、ミサイル巡洋艦は近距離戦闘には向きません。大統領にもっと早くに攻撃許可を出して頂けていたなら無駄な犠牲を払わずにすんだのです。」大統領を睨みながら軍務相オズワルドが言う。


「帝国にはどのような報復を行うつもりですか?」外務相ノエルが問う。


「国境侵犯をしたのはこちら側だ。報復を行うつもりはない。言ったはずだ。」大統領は言う。


「しかし、4000人以上が行方不明なのですよ!国勢調査の結果、国民も報復を望んでいます。断固とした対応をとるべきです。」とデレスターレ。


「もしものことを考慮して、艦船の増強をお願いしたいです。」とオズワルト。


「300年の平和は少し、長すぎたのかもしれんな。」大統領は感慨深く言う。


「どういうことでしょうか?」


「平和は当たり前だと誰もが考える。しかし、それは違う。平和は守り通さねばならない。ここで紛争を拡大させる訳にはいかん。」


「しかし!何かしらの対応をしないと半年後の、議会選挙に響きます。」ノエルが言う。


「選挙のために戦争をするなどありえん。」


「戦争しろとは言っておりません。貿易制裁でも、為替制裁でもいいのです。」


「必要ない。国民も馬鹿ではない。分かってくれる。」静かになった部屋に、デモ隊の声はよく響いた。




ヒルメラーゼ共和国 大統領府前広場


広場には、数万の群衆が集まり、じわじわと前方に構える警官隊ににじみよっていた。


「大統領は辞任しろー!」


「殺人者どもに制裁を!」


「大統領は同胞の命を何だと思っているんだ!」


「止まりなさい!デモの申請が行われていない以上、貴方達のしていることは違法です。直ちに立ち退きなさい。」メガホンを持った警官が言う。


「ふざけるなぁ!」


「アンゴラス人には注意も何もしないくせに、何で俺たちはここに入っただけで注意するんだ!」


「こんなとこ突っ立ってないでとっととアンゴラス人を逮捕しやがれこの税金泥棒!」デモ隊の一人の男が、火炎瓶を取り出し警官隊に投げつける。それは見事に一人の警官に当たる。


「ぐぁーー!」


「なにやってる!確保!確保しろー!」鎮静を保っていた警官隊は警棒を構え、前に走り出す。


「警察が暴力を振るうのか!」


「暴力反対!」


警官が、火炎瓶を投げた男を取り押さえようとするが、ほかの参加者に肩を掴まれる。


「公務執行妨害で逮捕だ!」警官は肩を掴んだ女の身柄を抑えようとするが、それは叶わなかった。前から、後ろから殴られバランスを崩し倒れてしまう。ある者は、脇腹に蹴りを入れ、ある者は頭をヘルメットの上から蹴りつける。数分後、銃を持った機動隊が応援に駆けつけデモ隊は散り散りになった。すぐに救急車が呼ばれ倒れた警官が運ばれたが、警官10名死亡、重傷者38名というニュースは世間に衝撃を与えた。

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