国境紛争 

植民地ダイナより南 100kmの海域


「白竜部隊、謎の光を受けて壊滅です!」


「なんだと!くっ、仇は討ってやる。180°回頭、右舷砲列発射用意!」アンゴラス帝国、ダイナ駐留艦隊司令が言う。


「魔道砲、術式展開!」


「面舵一杯、ヨーソロー!」木造の船が、ゆっくりと曲がり出す。


「司令!敵の巨大艦の主砲が動き出しました!」見れば、一際大きい敵艦の主砲がこちらを向き始めている。。


「心配するな!こちらの方が数では優勢だ!それに、我々の戦列艦の速度は早い。当てるのは至難の技だ!」


「戦列艦、アーチボルド、エリアル、アーノル轟沈!」次弾を撃つ間にも、ミサイル巡洋艦の機関銃により帝国艦隊は数を減らす。


「回頭完了!敵艦を射線に捉えました!」


「敵、巨大艦発砲!」3連装主砲4門と3連装副砲2門が一斉に煙を上げ、辺りを爆音と振動が襲う。そして、レーダーにより正確に照準された弾は、戦列艦を射抜く。戦列艦が小さく思えるほどの高さの爆炎が上がり、あっという間に沈んでいく。


「司令!20隻ほどが、今の攻撃でやられました!」


「艦隊の損耗率70%を越えました!」


「敵旗艦を集中砲撃せよ!」司令は、先程の攻撃をもう二度と喰らわないように、標的に旗艦を選ぶ。


「了解、魔道砲撃て!」百を越える熱を持った光が、ヒルメラーゼ公国旗艦アーノルドに集中する。


「やりました!ほとんど命中しています!」


「さぁ、残りも片付ける!取り舵一杯!左舷砲門発射用…」煙に包まれた海域から出てきたのは、何もなかったかのように堂々と大海原をいくアーノルドの姿だった。その主砲はこちらを見すめたままだ。


「まさか、こんなことが…」次の瞬間、司令の意識は掻き消えた。




------------------------


ヒルメラーゼ共和国 第12戦闘艦隊旗艦 アーノルド


アーノルドは先程集中砲火を受けたにも関わらず、悠々と航行している。


「敵艦隊、全艦轟沈!やりましたね司令、司令?」艦長がうかない顔を浮かべた司令ベネディクトに言う。


「こちらの損失は?」司令が問う。


「ミサイル巡洋艦4隻ですが…」


「そうだ!最新鋭のミサイル巡洋艦4隻だぞ!それを地方隊にやられたのだ!」ベネディクトは、アンゴラス帝国に憤慨するのであった。




------------------------


アミル王国 アビゲイル石油精製所沖


海に浮かぶ、巨船がおよそ10隻。第4護衛艦隊群である。その旗艦しまかぜは、不振な気配を察知した。


「レーダーに感あり。6隻の大型艦が接近中です。」


「何だと!」艦長は言う。


「今までのアンゴラス帝国軍と比べ物にならない大きさです。」


「不味いな、向こうから出てきてくれると民間船と軍艦の区別ができん。哨戒ヘリに行ってもらう他ないな。」司令は言う。


「しかし、危険では?」


「艦隊を危険に晒すよりはましだ。それに敵の攻撃は連射が聞かない。よほどの事が無ければ当たらんはずだ。」


「了解!」




------------------------


ヒルメラーゼ共和国 首都メイナード 大統領府


何本もの煙突から黒い煙が立ち上る。永遠に晴れがない街と呼ばれることもある工業都市メイナード。コンクリートで作られた無骨で巨大な建物こそ、この国の頭脳とも言える大統領府である。


「第12戦闘艦隊に乗船している親衛隊より連絡が入りました。」整った顔立ちを、そして優美な軍服を着た男、軍務相がオズワルドが言う。


「読め。」大統領は不機嫌そうに言う。


「はっ!ヒルメラーゼ第12戦闘艦隊とアンゴラス帝国軍が戦闘状態に入ったとのことです。敵艦隊50隻、竜を16騎撃墜するも、ミサイル巡洋艦4隻を失ったとのことです。」


「何だと!」大統領は愕然とする。とうとう平和な時代が終わるかもしれないのだ。オズワルトは動揺を示さずに言う。


「油田の確保のためとはいえ連絡もなしに戦争を始めるとは。しかも被害も甚大です。これは明らかに命令違反です。厳しい処遇が必要かと。」


「構わん、好きにやれ!アンゴラス帝国はなんと言ってきている?」


「アンゴラス帝国は原住民の反乱だと言っております。今のところ、越境に対する謝罪、賠償、責任者の引き渡しを要求してきております。」外務相ロードリックが言う。


「うーむ、応じる他ないのか。」


「しかし、本当に原住民がアビゲイル石油精製所を攻撃したのでしょうか。」オズワルトが言う。


「アンゴラス帝国の自作自演も考慮すべきかと。謝罪も賠償も受け入れるべきではありません。国の威厳にも関わります。」とロードリック。


「それで300年続いた平穏を守れるならば、安いものだ。責任者の処遇は任せると言ったが、それは取り消す。帝国に引き渡してやれ。」大統領は穏やかな声音で言うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る