市街戦 下

アマリーナ公国沖合


軍港の沖合いに停泊する巨船の集団。その中の、平べったい不思議な形をした第三護衛艦隊群、第三艦隊旗艦ひゅうがにて。


「掃討中の部隊から要請が来た。OH-1を発艦させよ。」司令が言う。


「しかし、集中攻撃を受けるのでは?」


「制空権は完全にこちらの物だ。加えておそらく敵にまともな対空戦闘能力はないだろう。それに、撃ってきたら撃ってきたで敵の居場所が分かるだけだ。」


「了解しました。」




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バババババと空から爆音聞こえる。その音は帝国兵を不安に駆り立てる。


建物に潜んでいる帝国兵が、窓から音の発信源を探す。そして、巨大なな虫のような物を見つける。


「少尉、なんでしょうあれ?」


「馬鹿っ!敵の兵器に決まってんだろ!窓から身を乗り出すな。離れろ。見つかるぞ!」少尉は部下を叱咤する。


「迎撃しないんですか?」部下が問う。


「飛んでる物にファイヤーボールはあたらん。だからといってサンダーストリームはあれを落とすには射程距離が短すぎる。潜入場所を無為にさらすだけだ。」


「しかし、あちこちからファイヤーボールが発射されてますよ。明後日の方に行ってますけど。」部下は外を見て言う。


「なんだと!」




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護衛艦 ひゅうが


会議室には幕僚達が集まり、その真ん中に大きな航空写真が広げられている。


「OH-1より、映像が来ました。分析の結果、26箇所から火の玉が発射された事が判明しました。丸印の所ですね。」


「以外と多いな。」司令が言う。


「まぁ、場所が分かっただけましというものです。」


「よし、展開中の陸自にも情報を送れ!」


「はっ!」




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「少尉、虫どこかに行きましたね。」


「何も攻撃してこないとは妙だな。」少尉は訝しむ。


「まぁ、何もないに越したことありませんよ。」


「少尉っ!人がこちらに向かって…」慌てて兵が1階に降りてくる。しかし、間に合わなかった。道が複雑に入り組んでおり、見通しが悪いのだ。


「ドンッ!」突然扉が蹴破られ、汚い格好をした男達が入って来る。男達はこの家の住民だった者を見ると怪訝な顔を浮かべる。その男達が敵だという事を理解するのに時間はかからなかった。


「術式構築、ファイ…」


「正当防衛射撃撃て!」


「ダダダダダ」と獣の咆哮のような音が響き渡る。この音が途絶えた時、家の中には自衛隊員しか存在していなかった。




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アマリーナ公国 王城


王城のほぼ全ての棟は焼け落ち、焦げて黒くなった柱を晒している。唯一無事だった、南館に、この国の要人達と自衛隊幹部が集まっていた。


「本当にありがとうございました。」大公は自衛隊幹部と固い握手を交わす。


「我々、日本国自衛隊はアマリーナ公国を占拠していた武装勢力をほとんど壊滅させました。これより我々は一部部隊を除き、この国を離れます。」


「これでひと安心ですね。本当にすごい兵器でした。未だに夢を見ているような気分です。」大公は言う。


「ほとんどとはどういうことでしょう?」宰相ワルツが疑問を投げる。


「組織的な抵抗はなくなりましたが、残存兵が都に潜んでいるようです。ですから一部の部隊を残します。もちろんその後は、速やかに撤収致します。」


「厄介な事になりましたな。どのくらい時間がかかるのでしょう?」ワルツが聞く。


「正直、分かりません。」


「それなら我が国にも手伝わせてください!日本だけ頼る訳にもいきません。我が国は独立国になるのです。私達も戦わねばなりません。」大公が言う。


「しかし…」


「お願いします!」頭を下げる大公を前に、自衛隊幹部は断りきる事が出来なかった。結局、本国の許可を取り合同で残党探しをやる運びになった。




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とある家の中、十数人の男達が身を寄せあっている。


「少尉、腹減りました。もう食いもんないんですか?」


「元々、独り暮らしの家だったようだからな。」


「しかし、いつまでも閉じ籠ってるわけにはいきませんよ。飢え死にしかねません。」


「そうですよ。」部下達は不平をこぼす。


「しかし、まだ敵が屯しているはずだ。もう少し我慢しろ。」


「えーーっ!」


「誰か来ます!」見張りが階段を下りて言う。


「お前ら、静かにしろ!」少尉は部下を黙らせる。そして数分後。


「アマリーナ自警団の者です。お宅を拝見させていただきに参りました。」アマリーナ自警団は都に潜んだ帝国兵を探し、排除すため臨時で組織された。ある者はアンゴラス帝国への恨みから、ある者は愛国心から自警団に志願した。それぞれの隊は、城の衛兵に率いられる。


「アンゴラス帝国の力をみせてやれ!術式展開、行けぇーーー!」


「おぉーーー!」扉が突如として開き、幾つもの火の玉が飛んでくる。その幾つかは団員に当たり、有機物を燃やす。


「グァーーー!」


「アッチィーー!」


「やっぱり、魔法を使える相手に勝てるわけがなかったんだ。」


「逃げろ!」


「待て!こら、ここまで来てグハァ!」帝国による支配の恐怖が魂に刻まれ、加えてまともな訓練などろくに受けていない団員達には、まともな戦闘などできる者は少なかった。しかし、逃げた団員により敵の居場所だけは割れるこで、報告を受けた自衛隊が速やかにその建物を制圧することができた。そんな青年団の働きもあり、2日ほどで残党狩りは終わりを迎えた。


この戦いで陸上自衛隊隊員46名が死亡、42人が負傷した。アンゴラス帝国兵は4000人以上が死亡。345人が捕虜となった。アマリーナ公国の民間人182名が死亡した。

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