アミル王国戦 上
アミル王国 王都
黄、オレンジ、そして赤。色鮮やかな建物が海のそばに並ぶ。その中で黒い高層建築物が異質を放っている。そこから、階段を下りていく人影が一人。前軍務相、アルクである。
「日本め、くそっ!」厳しい出世競争に勝利をやっとの思いで掴み取り、ようやく手に入れた軍務相の肩書き。それから一転、駐留軍司令に左遷させられたアルクは、自分の出世を断った日本を恨んでいた。部下達は機嫌が悪い上官を刺激しないようにそっと距離を置く。
このアミル王国は重要地点であり、他の衛星国の駐留軍の倍近くが配備されている。一時期、サマワ王国懲罰攻撃により定員割れを起こしたものの、この基地だけは補充により定員を回復していた。
「司令、今日も機嫌が悪いな。」
「ずっとこの雰囲気で仕事しなきゃなんねぇのかよ…」
「そこっ!何をヒソヒソしている!」アルクの叱咤が飛ぶ。
「いえ!何も話しておりません!」2人は見事な敬礼をアルクにとる。アルクはブツブツ言いながら、2人の脇を通り抜ける。
「うゎ。、こえー。」
「病んでんじゃないか?あの人。」アルクの評判は、部下の間では頗すこぶる悪かった。
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「全く、ろくな香辛料も用意できんとはな。」アンゴラス帝国軍において、駐留軍は予算の確保が厳しい部所である。大陸軍が根こそぎ予算を持って行ってしまうのだ。そのため、嗜好品は、司令のレベルであっても安物を提供しざるを得ない状況にある。大陸軍司令とは、大違いである。
「これだから辺境は。」アルクは不平をこぼす。料理を残し、司令官室に帰ろうとドアに手を掛けようとするが、何の前触れもなくドアが開かれアルクは頭をぶつける。
「司令!大変です!」部下が士官用食堂に入ってくる。
「痛たたた。見て分からんのか!お前の開けたドアが私の頭に…」
「そんな事より、緊急事態です。」
「そんなことだと!お前は司令を何だと…」
「哨戒中の白竜が次々魔信からロストしております!」
「何だと!魔信の故障ではないのか!」
「いえ、点検は一週間前に行ったばかりです。」
「全ての白竜を離陸、そして全艦緊急出港、迎撃させよ。海岸線に防衛線を張れ!」
「了解!伝達します。」兵が走って魔信へと向かう。
「陛下は、手柄を立てよと仰られた。もしかすれば好機かも知れん。」アルクは頭の中で皮算用を立てる。
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駐留軍軍港 アミル港
水兵達が桟橋を駆け、船にマストを張る。
「全艦緊急出港!全艦緊急出港!急げ!」
「風魔法充填70%!」
「艦長!乗組員の2割程がまだ来ていません。」
「緊急出港命令だ。仕方ない置いて行け!」頭上には20を越える白竜が空を舞い、まだ見ぬ敵を警戒している。その姿は、まるで勝利を確約してくれる守護天使のようだ。突如、遠くで何かが光り、その光が白竜に突き刺さる。
「なんだ!何が起こったのだ!」目の前で、威容を誇った白竜達が虫のように落とされていく。
「分かりません。」
「風魔法充填100%、出港できます!」
「出港!」船はゆっくりと動き出す。しかし、次の瞬間、雲の隙間より光の矢が飛来する。
「艦長!あの攻撃がこちらに…」
「回避運動!面舵一杯!全員何かに捕まれ!」
「面…!」船は、進路を変えようとするが、それは無為に終わった。船の中央部に矢が刺さり、船は爆散したのだった。
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