即位

サンドール王国 王城


「先王陛下は、不幸なことに逝去なされた。継承順位に乗っ取り、ローザ・クランシスタ陛下が第54代、サンドール王国女王に即位される。ローザ・クランシスタ女王に永遠の栄光あれ。」絢爛な服を着た白髪の目立つ老人が言う。


「永遠の栄光あれ!」部屋の全ての者が復唱する。部屋の中央にはローザが厳めしく座っている。復唱に満足したのか、少しだけ口角を吊り上げる。




-----------------------


「どう思う?」農業局の官僚がヒソヒソ話す。


「やはり、女の王なんてないよな。」


「だよなー。女の下で働くなんて…」


「お前達っ!何を言っておる。」後ろから高い声がする。男尊女卑の激しいサンドール王国では珍しい、女の衛兵の一人、カルリーノだ。


「お前達を反乱分子として捕縛する。」そう言うなりカルリーノは官僚の手に縄をかける。


「ちょっと待て!俺たちは何も!」


「女王陛下より、陛下に反対するものは全員捕縛せよと仰せつかまつっている。例外はない!」


「そんな!待って!待ってくれ、俺の子供は誰が養うんだ!」男は懇願するが、慈悲が通じる相手ではない。


「知るかっ!話してないで、とっとと歩け。」王城内の数ヶ所で、同じような光景が繰り広げられた。




----------------------


「では、日本との外交はしないと?」新たに宰相に任命されたベンジーが聞く。


「問題があるとでも?」冷ややかな声でローザが言う。


「いえ、ご英断かと思います。」ベンジーは、毒にも薬にもならない保身主義者である。だから、ローザは宰相に彼を起用した。


「アンゴラス帝国の使者に会い、奴隷の徴用の停止、農産物の上納の削減を約束させた。」


「さすがは陛下。仕事がお早いです。しかも帝国相手に対等な外交ができるとは。」ベンジーが言う。


「これでこの国も安泰だな。」ローザは自信ありげに微笑むのだった。




----------------------


サンドール王国 広場


広場には多くの人が集まっている。その中央では、男が十字架に張り付けられている。


「聞けっ!この者は、女王陛下の権威を汚し、サンドール王家を侮辱した愚か者である。よって処刑を執り行う。」


「待ってくれ、俺は殺されるような事はしてない。本当だ!助けてくれ!」男が懇願するが、それは意味を成さない。


「次に産まれてくる時は、愚かな罪を犯さぬようにせよ。」そう言うなり、処刑人は火をかける。


「ギャァァァー」男が息絶えるまで悲鳴は続いたのだった。




-----------------------


サンドール王国 とある酒場


まだ昼だというのに、薄汚れた酒場にはもう出来上がっている男達がいる。


「今回、即位すんのは女なんだってよ。」酔っ払いが言う。


「ほんとありえねーぜ。」男が参ったと言うように手をあげる。


「シーーッ、誰かに聞かれたらどうする?あの男の死に様をみただろ!」


「でもよぉ、奴隷の徴用が無くなるんだろ?」


「税金も安くなるってきいたぜ!」


「ふーん?いいことずくめじゃねえか。」


「まぁ、少し気に入らねぇが、それもそうだな。」ローザの国民からの支持は、決して少なく無かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る