反乱

小高い丘の上に建つ、大きな庭に囲まれた二階建ての小ぶりな城。それがサンドール王国の王城である。


「お帰りなさいませ、姫様。国王陛下より、無用な外出は控えるように仰せつかまつっていられるのでは?」見張りの兵が言う。軍をアンゴラス帝国に解体され、一切の武器の保有を認められていないので、兵と言っても持っているのは青銅の棒である。先の尖っていないただの棒だ。


「そんなの知らないわ。」姫、ローザはあっけらかんと言う。


「姫様、そちらの方々は?」ローザの後ろに付き従う男達を見て、見張りは言う。


「友達よ、友達。」


「姫様、素性の分からぬもの達を城の中へ入れるわけには…」


「素性は私が保証するわ。」


「しかし…」


「これならいいでしょ。」ローザは懐から金貨を数枚取り出し、見張りに渡す。


「分かりましたよ。私は何も見ていませんし、聞いてもいません。」


「話が早くて助かるわ。」ローザは颯爽と城門を潜るのだった。




----------------------


サンドール王国 王城 王の間


「…ですので、アンゴラス帝国と敵対することになっても、日本との国交樹立はすべきです。」使節団、団長として向かわせたドミニクが言う。


「その報告は、本当なのか!日本のブラフだという可能性は?」王がドミニクに問う。


「この目で見ました。お疑いになるのも当然ですが、報告に間違えはありません。」


「うーむ。なるほど、ならば結論は一つだ。日本に武装勢力…」


「姫様っ!お待ち下さい姫様。国王陛下は会議中です。いくら姫様と言えども…」外から大きい声が響く。


「何事か!」国王が言う。それに答えるかの様に、扉が開け放たれる。そこには、金髪の美しい女がいた。


「ローザ、わかっているのか!会議中だぞ。」国王は叱咤する。


「お父様、本当にアンゴラス帝国と手を切り、日本と国交を結ぶおつもりですか?」ローザは問う。


「女が政治に口を出すなといつも言ってるだろ!」


「お答えください。」


「そうだ。」しばらく間を置いて、国王は答える。


「そうですか。ならば仕方がありませんね。」ローザの後ろに棒を持った男達が集まってくる。


「お父様はこの国に必要ありません。ご退場していただきましょう。」ローザは寒気のするような笑みを浮かべる。2人の近衛兵がローザの進路を塞ぐように歩みでる。


「何のつもりだ!くだらない冗談はやめておけ。また、牢へ入れられたいか!」国王は怒鳴る。しかし、その声はローザには、届かない。


「殺りなさい!」ローザが号令をかけた瞬間、男達は近衛兵に襲いかかる。


「カキィン」一撃目を何とか防いだ近衛兵だったが、四方より攻撃され劣勢に追い込まれる。


「ローザ、お前!」国王は鬼のような形相でローザを睨み付けるが、ローザは涼しい顔をしている。


「今日から私がこの国の女王です。お父様は安心してお眠りください。」ローザは、国王に棒を繰り出す。


「ゴカァン」咄嗟にドミニクが国王を庇う。


「陛下…」何かを言おうとするが、額から血を流し倒れる。


「いい部下を持ちましたね。しかし、次はお父様の番です。」部屋を見渡せば、近衛と大臣は一人残らず倒れている。まだかろうじて生きている近衛の一人は、足をピクピクと痙攣させている。


「こんなことしてただで済むと思ってるのか!」


「思ってますとも。私がこの国の女王なのですから、私を裁ける人間などいません。」ローザが再び国王に棒を繰り出す。国王も手にした棒で応戦しようとするが、毎日密かに鍛練を積んだローザにはかなわず頭に一撃を喰らう。


「ゴホッ!」


倒れこんだ所をさらに殴り付ける。何度も何度も動かなくなるまで。服を赤く染めながらローザは殴り続ける。


「私はこんな奴に支配されていたのだな。よくも、今まで…」


「ダダダダダ」廊下から足音が近づいてくる。ローザは棒を捨て扉の近くに移動する。


「物凄い音がしましたがいかが何が…。陛下!国王陛下が…!姫様、何故こんなところに。一体何が!」狼狽えた衛兵にローザは言う。


「あの者達がお父様を、お父様を…。ウグッ、クッ、グスン。」ローザは自分の雇った男達を指差す。


「話がちがいますぜ!」


「裏切ったな!」男達が口々に叫ぶ。城中から衛兵が集まり始め、少しずつその数は増える。


「よもや国王陛下に手をかけるとは。覚悟しろ賊ども!」


「ヒャ!助けてくれ。なっ!なっ!ヒギッ!」男達はなす術もなく、衛兵達に殺されたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る