サマワ王国沖海戦
サマワ王国より北 15km
海を割り進む40隻の帆船。その中の1つ、サマワ王国駐留軍旗艦ルナの甲板。
「間もなく白竜が反応を絶った海域です。」
「分かった。司令も用心深いお方だ。今回、反応を絶った竜騎士は新人だったんだろ?この曇天の中で墜落しただけだろうに。」船長がため息混じりに言う。司令は基地に残っているため、臨時で彼が指揮を執っている。
「まったくです。それもこんな忙しい時に、面倒事をおこすとは懲戒ものですね。」士官の1人が言う。
「生きていればだがな。」苦笑が響く。特に話すこともなくなり、静寂が訪れ雨の音に包まれる。そんな一時の静けさは、あっという間に破られた。
「船長、前方より何かが飛んできます!」見張りが声を荒げる。船長が目を凝らすと、そこには小さい回る羽が幾つも付いた異形の魔導生物がいた。
「何なんだあれは。」船長は誰ともなく問いかける。
「分かりません。しかし、白竜の反応消失に関連があるかと。」
「あんな小さな魔導生物に、帝国の誇る白竜が撃墜されたとでも言うのか!」船長は怒鳴る。
「消失地点に異形の魔法生物。状況を考えますとそうなります。」士官が粘り強く続ける。
小さな魔導生物が近づき、話しかけてくる。
「こちら、日本国海上自衛隊。貴方達は日本の領海を侵犯している。直ちに転進せよ。直ちに転進せよ。」
「日本?確か召喚地の国だったはず。まさか、魔導生物を飼い慣らしているのか!魔法が使えないはずなのに。」士官が驚愕する。
「あれは敵だ!それだけで良い。戦闘用意、ファイヤーボールを使える魔導師は甲板に上がれ!竜母は白竜を発艦させろ。」船内の魔導師が甲板に吐き出され続ける。しかし、階段が少ないためなかなか時間が掛かる。それでも数刻後には、全ての船で魔導師が整列する。辺境とはいえ、アンゴラス帝国軍の練度は決して低くない。
「ファイヤーボール発射!」号令がかかり、船から幾つもの赤い光が放たれる。海より空へ吸い込まれるそれは、幻想的ですらあった。そして…。
「ファイヤーボール命中!敵機墜落します。」ファイヤーボールの1つが当たり、たくさんの羽が付いた竜は、バラバラになり海へ墜ちた。乗組員達の歓声が響き渡る。
「やりましたね、司令。司令?どうかなされましたか?」士官は敵機を撃墜したと言うのに、何やら考え込んでいる司令を心配する。
「あれが、白竜に勝てる筈がない。植民地制圧軍は、異形の巨竜に負けたと言う。もし、あれが巨竜の子供だとしたら…」
「北より何十もの光が接近してきます!」
船長は、我が目を疑った。まず、発艦した白竜全てに光が刺さり爆散した。その次は船団に、その光が舞い降り帝国の誇る戦列艦を、木屑へと変えてゆく。
「戦列艦アラドス、マルシス轟沈。竜母アマナミス沈没。報告が追い付きません。」
精強なアンゴラス帝国艦隊が、成す術もなく消えていく。何をどうすれば被害を抑えられるか、全く思いつかない。私は無能の将として歴史に名を刻むだろう。
「本艦に光の矢が接近、回避っ!回避を。」他の何十の船と同じ運命を、旗艦ルナも辿ったのであった。
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