どうかあなただけは
マオを突き飛ばしたあと、視界が真っ暗になった。鉄のなにかが、自分の腹のあたりを貫通していた。
どおりで、熱いと思った。
「マコト!!」
心配してくれる声が聞こえた。それと同時に、視界にマオの姿が映った。
覆われていた機械を全てどけてくれたのだろうとわかった。
「なぜかばった!!私には自然治癒が……!」
脳が潰れる可能性もあったし、そうでなくても身体が勝手に動いたんだ。
なんでかなんてわからない。
でも、駄目だこれ。内蔵突き刺さってんのかな。意識が薄れていくのがわかる。声も出せない。
死ぬのか、俺。
生きるのに希望が見えたとこなのに。
でも、まあ、悔いはない、かなあ。
「………………」
なんでかこういう時に思い浮かぶのは、マオの顔だった。口喧嘩もしたし、無理矢理外に連れ出されたりもした。
でも、なんでだろうな。
マオが来てからすごい、楽しかったなあ。
あぁ、そっか。
俺、マオのこと…………
今更気がついたとこで遅いけれど。
せめてどうにか伝えられたらと思い瞼を無理矢理開こうとした直後、
マオの手が、光りだしたのが見えた。
「………………?」
そのまま俺の傷に手をかざす。
何をしてるかわからない。
いや、待て。
確かマオは言っていた。天使から忠告されたと。
1つだけ、魔法を使えるが、それを使うと消えてしまう、と。
まさか。
「……自然治癒のある私が、本来使う必要のない魔法だったんだ。『治癒魔法』なんてな」
やめろと叫ぼうとしたが、肺にも傷の影響があったのか、うまく声が出てこなかった。
「今更になって私を魔王と信じたか?はっはっ!遅いぞ、マコト」
俺の傷の痛みが徐々におさまる。
そんなことはどうでもいい。
魔王でも、そうでなくても。ここに『マオ』が生きていてくれれば、それで良かったんだ。
だから、
「……めて……くれ…………」
マオが消えては、意味がないんだ。
俺が生きていたいと思えたのは、マオのいる世界だから。
その希望を、どうか奪わないでくれ。
俺の涙を見て、申し訳なさそうな顔でマオは笑う。
その姿が、徐々に透けていくのがわかった。
「すまないな、マコト。でも、こうするしか思いつかなかったんだ」
マオの手の光は強まる。
その光の強さとともに、痛みはなくなっていく。
「マオ……!」
「自分のことを傷付けるなと。粗末にするなと。お前に怒られたっけな。今回も、お前は私にきっと怒るだろう。でもそれでも、私はお前に生きてほしいんだ。マコト」
もう、光でマオの姿は微かにしか見えない。でも、それでも声はしている。
まだ、している。
「マ……オ……ッ!!!!」
「だって、私はお前がーーーー」
光で視界が埋まり、声が途切れた。
光が収まった頃には、雨に濡れた機械が、そこに転がっているだけだった。
自分の腹部には、傷なんて一つもなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます