甦る記憶

マオが突然、いなくなった。

ヒーローショーの途中、突如走って逃げていった。悪者の配下が出て来たシーンを見てから、様子が少しおかしかった事は覚えてる。

目を離したすきに消えてしまった。


行き過ぎた悪者に対して、その配下が悪者を見捨て、悪者はヒーローと孤独に戦い、死に行くというシナリオだった。


「マオ!!」


叫びながらあたりを見渡し、ようやく見つけた先は、今は使用されていない遊園地のマシンがいくつも放置されてる場所だった。複数機積まれている部分もあり、少し危ない。


「帰るぞ、マオ」

「マコト……思い出したんだ。私が死んだ時のことを」


雨が強めに地面を叩き、風も少し吹いてきた。


「はあ?勇者にやられたんだろ?んなこといいからーー」

「違う。勇者の一撃で、私はまだ死んでなかった。かすかに息があった。そのままなら、私は自然治癒で生き延びてた」


それでも、彼女は喋るのをやめない。


「私は私の部下に、殺されたんだ」



説明してくれた。簡単なことだ。

勇者の最後の一撃を浴びたマオは、まだ息があった。

その後、彼女の部下が様子を見に来て、瀕死のマオを発見した。

脳を潰されない限り、マオは死なない。

それを知っている部下は、身動きのとれないマオの顔面をーー


「よくも戦争なんて起こしやがって、と私を殺す直前、部下は言った。

もっともだ。私は父や母に、人間は悪しきものと教えられ、ただただ滅ぼせば良いものと思っていた。他の者の命が犠牲になっても、それを気にすることもなく」


この世界で人を知ったからこそ、生きる楽しみを知ったからこそ、今彼女は心を痛めているのだろう。


「マコトに偉そうなことを言えたものではなかったな」


でも、それは違うはずだ。マオのせいだけではないはずだ。彼女はおそらくーー


「その時のお前は、自由じゃなかったんだろ?」


ビクッと、彼女の肩が動いた。

予想通り。マオは、この世界でやけに活き活きしていた。それは、『魔王』という立場がないからだ。親からも、部下からも、プレッシャーを受けていたから。元の世界では、『立場』に縛られ、動かされていただけ。

そうしなければ、生きていけなかったから。

周りを思いやっていては、何も救えなかったから。

その『立場』に、彼女は押し上げられたのだ。

生まれたときからずっと。拒否権もなく。


だから、この世界で得られた自由が、本当に嬉しかったのだろう。


俺の出した、勝手な考えかもしれないけれど。


「誰もそれが悪いと、教えてくれたか?そうじゃないだろ。性格も、人格も、」


でも、俺はそう信じた。


「お前のせいだけじゃない」

「ーーーーーーっ」


マオが言葉を紡ぎかけた、刹那。

雨のせいか風のせいか、積み上げられていた機器が、マオのほうに揺れ、落ちてくるのが見えた。




俺の身体は、勝手に動いていた。

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