毎日が始まる
『数字を上げなきゃ、意味なんてないんだよ』
『いつまで学生気分なんだ?』
『やる気ないなら辞めろ!お前の代わりなんてどこにでもいるんだよ!』
「ーーーーっ」
汗だくで目が覚めた。休日だというのに、平日鬼ほど怒られていた言葉が夢に出てくる。
最悪の気分。
「……おはよう」
返ってくることなんてない言葉。
それでも、起きた時に『おはよう』というルールは、社会人になってからも続けている。親から教わったのだ。
『お早く起きられましたね。ご健康でおめでとう』が本来の意味で、1日の始まりの言葉だから、たとえ1人でも言うようにと。
ただ、
「そういえば、前も言ってたな。『おはよう』って、どういう意味なんだ?」
今は1人じゃないことを、数秒後思い出した。寝ぼけた顔をしたマオに、親から教わったことをそのまま伝える。
前回も半分は起きてたらしい。
「今じゃ、良い目覚めでしたねとか、今日も1日よろしくねとか、相手に使う言葉にもなってるけどな」
「ふむ……ではマコト!おはよう!!」
「……おう、おはよう」
マオのその挨拶は、とても無邪気な笑顔だった。
年相応でもない、少女のような笑顔。本当に魔王だったら、人間と対峙してきたはずだ。人を殺してきたりもしたはずだ。
でも、マオからはそんな感じは微塵もしなかった。
やはり作り話なんだろう。
とにもかくにも、マオにはそれなりに働いてもらうことにしよう。生活費も勿論だが、自分の食いぶちは自分で稼いでもらう。
なにより、マオを1人で自分の家に置いておくのは、色々こわい。
「この休みを使い、とりあえずマオの働き口を決めるが、いいか?」
「おお、良いぞ!指示をするだけじゃなくて、自分の体を動かす仕事がいい!」
「?よくわからんが……わかった。でもいいのか?前の世界で人間と敵対してたんじゃないのか?」
会った時に、人間風情がとかなんとか言ってたのに。人と働くことに抵抗はないのか。
「前の世界は前の世界だ。マコトと会って、話して、この世界の人間に対しての評価をした。皆が皆ではないかもしれんがな。でもな、お前はきっと良いやつだ」
だから大丈夫だと、笑顔でいうマオに対し、不安になった。
いくらなんでも単純すぎる。
本当に魔王なら今までどうやってやってきたというのか。
それに、俺はそんな立派な人間ではない。
ただ、『生きてる』だけの人間だった。
「では、どんな仕事だ?」
「あ、ああ……」
マオの声で現実に帰った。
ふとした時にネガティブになってしまうのは悪いところだ。
工場を経営している親戚のおじさんに連絡をして、ところどころはホントに申し訳無いが嘘をついたりして、なんとか下働きで雇ってくれるよう話しをつけた。
あちらが人手が足りないと以前にボヤいていたことと、マオのことを身寄りのない子がいると言って同情を誘ったのが良かった。
力仕事が割とあるかもしれないが、まあマオなら問題はないだろう。
わけわからないくらい力があるからまあなんとかなるだろうと考えていると、
「仕事の場所とか時間はわかったが、明後日からか……それまでどうする予定だ?」
首を傾げてマオが質問してきた。
「せっかく仕事の無い日だしゆっくりしとくつもりだけどな」
「いや、それはダラダラするだけではないか!せっかく自由に何でもしていい日なんだぞ!自由なんだぞ!!」
「……それがなにーー」
「外に出る!!楽しいところに連れていけ!」
「はぁ?」
外に馬鹿力で引っ張り出された。
俺の袖を引っ張り、目的もないくせにワクワクした顔で先導する。
「よーし!どこにいく?マコト!」
「……とりあえず俺のジャージ以外に着るものほしいだろ。あと俺の寝る布団。だからショッピング行くぞ」
「ショッピング?ショッピングってなんだ?」
「そっからかよ……で、その次は美味いものでも食べるぞ」
「あ!マコト!私あれ食べたい!テレビってやつでやってた、クレープってやつ!」
面倒くさいは面倒くさい。でも、目の前のマオがあまりにワクワクして歩き出すから、俺も足を動かしたくなった。
休日の予定があることなんて、いつぶりのことだろうか。考えてもわからなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます