ヒロインは考察する
「やばいやばいやばい!」
あたしは寮の部屋で書き溜めたノートをめくる。
[二年生のイベント]と書かれたページ。
「ないないない!」
[三年生のイベント]と書かれたページ。
「あぁ〜!やっぱり〜!」
・階段落ち
ローゼリアに言い掛かりを付けられ階段に突き落とされるが、好感度の高い攻略対象者に助けられ、医務室で手当てをしてもらう。
「まだ二年生なのに、三年生のイベント起こしちゃったんだ」
あたしはノートを放り投げてベットに飛び込んだ。
「どうしよう〜!なんでうっかり足滑らせちゃったかな〜、あたし!」
そう、突き落されてない。
足を滑らせて落ちた所にアラン様が現れて助けてくれた。
驚いたのと怖かったので混乱して、階段落ちイベントだ!と思い、アラン様にローゼリアにやられたのかと聞かれて思わずうんと言ってしまった。
あたしには前世の記憶がある。
この世界で普通に平民として暮らしていたけど、母さんが亡くなって茫然としてたら、ブレッド男爵家から迎えが来て、貴族として暮らす事になった。
びっくりしたけど、取り敢えず生活には困らなくて済みそうだったから安心してたら、十三歳だから学校に行かなきゃいけないと言われて、学園に入学させられた。
その入学式で気付いたのだ。
ここが前世でやっていた乙女ゲームの世界だと!
試しに入学式が始まる前に講堂近くの庭でウロウロしてたら、アラン様が来た!
興奮した。
二次元じゃないリアルな攻略対象者なんて、想像つかないと思ってたけど、半端なく王子様だった!
そして何を隠そうあたしはヒロインだ!
ひゃっほう!
ヒロインとして攻略対象者とイベントを起こしまくった。
王太子のアラン様を始め、側近の公爵令息や騎士団長子息、アラン様の護衛騎士にクラスの担任教師。
このゲームに逆ハーは無かった筈だけど、みんながあたしを気に掛けるようになって来た。
恋のスパイス悪役令嬢も何かと絡んでくるようになった。
ただ、記憶している悪役令嬢と少し違う気がした。
見た目はゲーム通り真っ赤な髪に紫の瞳のザ・悪役令嬢なのに、なんだか普通の人なのだ。
というか、どっちかというといい人っぽい。
廊下は走らないとか、先生みたいな事を言っては来るけど、何だかあたしが困らないように色々フォローしてくれている。
でも一応攻略対象者には、ローゼリアに酷い事を言われたと泣きついてみたりした。
そこではたと思う。
何も考えずに乙女ゲームを楽しんでしまったけど、よく考えたらあたしはどうしたいんだろう?
アラン様は王太子だ。
攻略して結ばれる事はイコール王太子妃になって、いずれ王妃になるって事だ。
無理無理無理〜!!!
王妃教育とか絶対無理〜!!!
前世でも勉強は大っ嫌いだったし、今も嫌いだし、マナーの授業のカーテシーしたまま耐久レースとか意味分かんないし、絶対無理だ。
そうだ、アラン様にはローゼリアがいるんだ。
王太子妃とか王妃とかは、なりたい人がなればいい。
恋のスパイスとして悪役令嬢は必要だけど、アラン様の事は諦めて、他の人を攻略しよう!
そう思ってたのに…。
アラン様や他の攻略対象者と仲が良い事を妬んだ女生徒達から、嫌がらせを受けるようになった。
教科書や持ち物を隠されたり壊されたり、中庭を歩いていたら水をかけられたりした。
ローゼリアじゃない事は分かっていたけど、誰にやられたんだと聞かれた時に、乙女ゲームのストーリーが頭に浮かんだ。
ここでローゼリアじゃ無いって言ったら、ストーリーが進まなくなるんじゃない?
それは困る〜!!!
一応ローゼリアだとは言わず、何となくそうかな〜くらいで言ってたんだけど、どんどん話しが大きくなって、いつの間にかアラン様とローゼリアの仲は最悪な状態になってしまった。
極め付けがうっかり階段落ちだ。
あたしを医務室に連れて行ってくれた後、アラン様がローゼリアを張り飛ばした挙句、退学だの婚約破棄だの言い出して本気で焦った。
どうしよう。
王妃なんて絶対嫌だ。
乙女ゲームのヒロインだ〜なんて気楽に考えるんじゃなかった。
これはリアルなあたしの人生なんだ。
リセットできるゲームじゃなかった。
なりふり構っていられない。
自由に楽しく二度目の人生を謳歌する為に、面倒くさい王妃の役目はローゼリアにやって貰わなくっちゃ!!!
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