王太子殿下は動き始める
医務室に戻りユリアや側近達の顔を見て、自分のしてしまった事に気付いた。
感情に任せて婚約者であるローゼリアに平手打ちをした挙句、胸ぐらを掴み上げ壁に打ち付けてしまったのだ。
「バレット公爵家から抗議が入るかもしれませんね」
側近の一人が言う。
「この前父上から、ローゼリアを蔑ろにしてユリアに構うのは止めろと言われたばかりなのに」
しかもユリアに王都を案内してやっているのを遊び歩いていると注意され、公務や勉強が疎かになっていると畳み掛けられた。
「蔑ろにされているのはユリアの方だ!」
ユリアは可哀想な子だ。
平民として幸せに暮らしていたのに、母親が亡くなりブレット男爵の庶子である事が分かって、いきなり貴族が集まる学園に放り込まれた。
右も左も分からず困っていた所を私が見つけなければ、学園に馴染めないユリアは、一人で辛い思いをしていた事だろう。
「あ、あたしは大丈夫だよ!足の怪我も大した事無かったし…痛いけど」
ユリアが足の痛みに耐えながら笑顔を向ける。
こんなに健気なユリアを階段から突き落とすなんて、ローゼリアには本当に幻滅した。
何も知らず何も出来ないでいるユリアを不憫に思い、助けになればと一緒にいるだけなのに、変な邪推をしてユリアに危害を加えている。
私の妃となりいずれ王妃となる為に日々研鑽を積む、聡明で優しい女性だと思っていたのに、こんな狭量で性格の悪い女だとは思わなかった。
「打ち所が悪ければ命の危険だってあった。今まで学園長に話して来たが埒があかないから、今回は父上に話して、ローゼリアを退学処分にし、婚約を破棄しようと考えている」
「え?!」
私の決意に、ユリアが目を見開いて驚いている。
「まだ早…じゃなくて、あたし、本当に大丈夫だよ!ローゼリア様を退学になんてしないで!アラン様、お願い!」
そう言って私にしがみつくユリア。
こんな酷い目に合ったのにあの女を庇うなんて、なんて優しい子なんだろう。
「しかし、今回の件は悪質です。しっかり調べ上げてあの冷血女がやったという証拠を掴みましょう、そして…」
側近の一人が話していると、ユリアが慌てたように遮った。
「お願い!そんな事しないで!し、調べたりしたら……ローゼリア様に気付かれちゃうし…そうしたら、もっと虐められちゃうと思うの」
いつも元気なユリアが、肩を落としションボリした表情を浮かべる。
「みんながあたしを心配して言ってくれてるのは分かるけど、もっと虐められたら、辛いのはあたしなんだよ」
側近達と顔を見合わせる。
いつも具体的に動こうとすると、ユリアがこうして自分の悲しい境遇を訴えてくる。
その結果これまであの女が野放しになってしまっていたのだ。
「分かったユリア。君を悲しませるような事はしない」
私達は階段から落ち、足を痛めたユリアを代わる代わる支えながら寮まで送った。
「殿下」
「ああ。あの女はユリアを階段から突き落とした時間は学園長と話していたと言っていた。だが、これまでいくらユリアの境遇を訴えても、全く動かなかった学園長はおそらくあの女の味方だ」
側近達が頷く。
「あの冷血女に肩入れしていない人間で、ユリアが階段から落ちた時間帯に冷血女を見た者がいないか探してみましょう」
「頼む」
私達はユリアには知らせず、内密に事件を調べる事にした。
「これまで冷血女がユリアにしてきた事も、裏を取りたいと考えているんですが」
「許可する。くれぐれもあの女に感づかれないよう気をつけろ」
私達は顔を見合わせて頷き合い、ユリアを守る為動き出した。
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