公爵令嬢は王太子殿下との婚約解消を望む2
「ブレットさん、廊下を走ってはいけません」
「あ…ごめんなさい。ローゼリア…様」
ピンクゴールドの髪に水色の瞳の可愛らしいユリア・ブレット男爵令嬢。
彼女は、貴族子息子女の通う学園で明らかに浮いていた。
「ブレットさん、何度も申し上げましたが、わたくしは貴女に名前を呼ぶ許可はしておりません。この場合、わたくしは貴女より上位貴族になりますから、家名に様を付けるのが正しい呼び方になりますのよ」
わたくしは折に触れ、彼女に貴族子女としての礼儀作法を教えていた。
彼女は全くと言っていい程何も知らず、しかも何度教えてもなかなか覚えてくれ無かった。
マナーの授業の先生も困っているくらいだった。
この頃、王太子殿下が彼女を心配して何かと側にいる事を邪推して、わたくしに注進してくる人が何人かいた。
その度に事情を伝え、彼女が早く貴族社会に馴染めるよう協力をお願いした。
「ユリアから、君や君の友人が意地悪をして来ると相談を受けたんだ」
「?!」
ある日王太子殿下からそう言われて、わたくしはショックで返す言葉を見つけられ無かった。
「君がユリアに貴族としての礼儀作法を教えようとしてくれているのは知っているが、やり方というものがあるだろう」
王太子殿下は続けて仰った。
「ユリアはまだ貴族社会に慣れていないんだ。寄ってたかって厳しくしないで、もっと優しく接してやってくれ」
そう言うと、わたくしの言い分を聞く事もなく去って行く。
その先には彼女がいて、王太子殿下は彼女の肩を抱くように引き寄せると、何か話しながら行ってしまわれた。
わたくしは協力をお願いした方々に謝罪してまわり、マナーの先生と相談しながら、優しく聞こえる話し方で彼女に声を掛ける事にした。
でも彼女に礼儀作法は全く身に付かず、王太子殿下にまた彼女を泣かせたと叱責を受ける日々が続いていた。
そうこうしているうちに、学園内にわたくしが彼女を虐めていると言う噂が流れ始めた。
出所を探すと、王太子殿下の側近候補達が流した噂だと判明した。
彼等はいずれ国王となる王太子殿下を支える為に集められた、優秀で血筋の良い貴族子息達で、同じく殿下を支える役割であるわたくしとも良い関係を築いていた筈だった。
彼等はわたくしの事を冷血女と呼び、可愛そうな彼女を身分を笠に着ていたぶっていると周囲に話していた。
「どうしたら良いのか分からなくて」
そう言うと、王太子殿下の母である王妃殿下が申し訳なさそうな顔でわたくしを見た。
手詰まりになったわたくしは、王妃殿下に相談する事にしたのだ。
「ごめんなさいね、ローゼリア。王族として弱い立場の者に気を配るのは大切な事だけど、だからと言って一人の…しかも女性に肩入れするのは間違っているわ」
王妃殿下は優雅な仕草でお茶のカップを置くと溜息を吐いた。
「最近、アランが貴女との時間を取らず公務や勉強もおざなりで、遊び呆けていると報告があったの」
学園内でも休み時間はいつも側近達を交えて彼女と共にいるけど、放課後や休日も彼女を連れて王都の見学と称し遊び歩いていた。
「陛下からあの子に話して貰ったんだけど、その矛先が貴女に向かったのかもしれないわ」
つまり、わたくしを悪者にする事で自分達の行いを正当化しようとしているのだろう。
「ローゼリアは少しその女生徒と距離を置いてちょうだい。学園内ではなるべく一人にならないように、護衛も付けるけれど、ご令嬢方に協力して貰いましょう」
王妃殿下はそう言うと、すぐに手配をしてくれた。
わたくしは、学園内では王妃殿下の意を受けたご令嬢方に囲まれ、行き帰りや邸の警備が増やされた。
例の彼女とは距離を置き、王太子殿下や側近達ともなるべく関わらないように過ごしていた。
それでも何故か、わたくしが彼女を虐めていると言う噂は流れ続けた。
なんでも、王太子殿下と仲の良い彼女に嫉妬して、様々な嫌がらせをしているというのだ。
教科書を破いたり、制服を水浸しにしたり…。
その度に王太子殿下や側近達がわたくしを責め立てた。
そんな事はしていないといくら言っても、証拠を出しても全く信じてもらえなかった。
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