第47話 ボードゲーム
私は、懐妊が判明してから、私は安定期が来るまでは、おとなしくしているようにと医師に指示を受け、離宮のベッドで過ごすことが多くなった。まあ、あまり動かなさすぎもいけないので、なるべく起きて、ソファなんかでゆっくりしていることも多い。
ーーそういえば、エリアーデ妃も、ちょうど同時期に懐妊の報が来たのよね。
退屈していらっしゃらないかしら?
そう、私が、退屈しているのである。
私は動いたら叱られちゃうけれど、なんかこう、座って遊べるようなものを、魔族領のドワーフが誇る技術師に作ってもらえないかしら。
うーん、カードゲームだと、紙が傷んじゃうわよねえ。だったら、リバーシーや、チェスならどうかしら?
そう思って、自分用と、ノインシュタットのエリアーデ妃に贈りたいと、そのことをルリに相談をしてみた。
「妃殿下方が、じっとしていても楽しめるものが増えるのは良いことですね!」
そう言って、早速陛下にその旨を伝え、宮廷技師を使っても良いとのお許しを得てきてくれた。
リバーシーは、オセロとも言うけれど、二人のプレイヤーが交互に盤面へ石を打ちながら、相手の石を自分の石で挟むことによって自分の石(色)へと換えていき、最終的な盤上の石の個数を競うボードゲームだ。石は、黒と白の表裏でできている。
チェスというのも、ボードゲームの一つで、先手・後手でそれぞれ、ナイト、ビショップなど、六種類十六個の駒を使って、敵のキングを追いつめるゲームである。駒によって、動ける範囲に規制があったりと、難易度は高いような気がする。
私は、紙に絵とルールを書いて、部屋に訪ねてきた技師のドワーフに伝える。
「ほほう。これは、なかなか知恵を使うものですな。王妃殿下の無聊を慰めるためだけではなく、皆が競技のように楽しめるのではないでしょうか?」
そういえば、確か、前世の世界では、チェスは大会もあるほどだったわよね。
「なんというか、陛下や宰相閣下がお好きそうですわ」
ルリも、技師の意見に賛同している。
「そうすると、私とエリアーデ妃の分だけだと、足らないかもしれないわね」
うーん、どうしたらいいのかしら、と私は困惑して首を捻ってしまう。
「両国とも、陛下、妃殿下へとして、まずは四組作ってみてはいかがでしょう?」
ドワーフの技師さんが提案してくれた。
「それはいいわね。駒の素材は、王家間の贈り物だから……」
私が言いかけると、そこは、任せてくださいというように、私の言葉の途中で技師が、逞しい胸をドンと拳で叩いた。
「魔族領最高のものを作って見せますよ!」
そうして、彼は、私のルールなどをまとめた紙を持って、部屋を去っていった。
やがて、一ヶ月ほどして(早くない?)、宮廷技師は、弟子たちを引き連れて、二種、二組、二国、計八個のボードゲームを私のいる離宮へお持ちしたいと連絡が来た。
なので、私は、陛下や興味を持ったらしいアドラメレクとともに、技師たちを迎えることにした。
「チェックメイト!」
陛下が頭を抱え、アドラメレクが勝ち誇ったように笑っている。
彼らはもう何戦目だろう。特にチェスがお気に入りのようで、さっきから、何度も陛下が再戦し、アドラメレクが全勝しているところだった。
「もう一回だ!」
陛下が、また再戦を申し出ている。
ーー国の宰相というのは、伊達じゃないということかしら?
そうそう。あんまり、彼らがゲームに熱中しているから、出来上がった作品の出来について語るのを忘れていたわ。
まず、リバーシーは、白大理石と黒大理石で作った駒で、触り心地も良かった。
そして、『健康・輝き・栄光』という意味を持つそうで、お生まれになるお子様への祝いとして良いのではないかと考え、技師が選んでくれた素材なのだそうだ。
そして、チェスの駒は水晶で出来ている。災いを退ける守り石としての効果もあるそうなので、出産までの安全を祈る意味で、選んだのだという。
私は、技師達に、素材の持つ意味まで考慮して作り上げてくれたことに、感謝の言葉を贈った。
陛下からも、感謝の言葉と報酬、そして、彼らがドワーフゆえ、お酒という追加の報酬を賜って、喜んで部屋を辞していった。きっとこれから、打ち上げの酒盛りをするんだろうな、と思わせる喜びようだった。
そうして、ノインシュタットの両陛下に、懐妊のお祝いとして、ゲームの説明書きとともに、品を贈ったのだった。
ところで、陛下が、チェスが弱い。
私にも負けるのだ。
日々、時間ができると、アドラメレクか私に挑戦するのが、陛下の日課になってしまった。
あ、ちなみに、リリスは対象外。どうしてって?
負けそうになると、「キィー!」って叫んで、ボードをひっくり返しちゃうから。あの子らしいわ。
ーーそれにしてもこれ、私とエリアーデ妃のために作ったのよね?
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