第46話 懐妊騒動

 賑やかだった結婚式も終わり、私はまた、離宮での穏やかな生活に戻った。

 陛下は、昼食時や、政務が終わると、必ず離宮に顔を出してくださる。


 そして夜は……。

 初めて一つになった初夜以降、陛下は毎晩通ってこられて、私を求めてくださる。


 ーー体に負担があるのではないかって?

 この世界には、回復魔法があるので、『その行為』で傷ついた肌を癒すことができる。

 そして、私は、毎夜熱心に私の敏感な部分を探されるのに夢中で、私はそれに翻弄されながらも、陛下と共有する快楽というものを受け止めることができるようになっていった。


「ユリア、ユリア……」

 陛下が私を求めて、名を呼びながら、私の肌という肌に口づけをしていく。

「あ、ん……、陛下、そこは、ダメ、です」

 すると、私に覆い被さっていた陛下が両腕で支えながら身体を起こす。

「ユリア。陛下ではない。二人きりなのだ。……名を、呼べ。ルシファー、と」

 そう言って、私の首筋の柔らかい肌に口付けを落とす。

「あ、……ルシファー、さまぁ」

 思わず、甘い声と共に、陛下の名前を言葉にして漏らす。

「ああ、いい子だ」

 ご褒美とばかりに、唇に軽いキスが降り注ぐ。


 ーー私たちは、幸せだった。


 ◆


 そんな幸せな毎日を送っていた、とある日、ノインシュタットのエドワード国王から、魔道具の通信用の水晶から、吉報が届けられたのだ。

 王妃、エリアーデの懐妊。

 国中が沸いているのだという。

 彼の国は、無血で父王から現王であるエドワードに王位が移され、国政改革が着々と進められている。その功もあってか、汚職をする貴族も減り、国民の生活も落ち着きつつあるのだという。

 そこに、新たな命の誕生だ。国中が祝わないわけはない。


「ユリア様、吉報ですよ。ノインシュタットの王妃様が、ご懐妊だそうです!」

「まあ、それは素敵!」

 私の元へは、ルリから一番最初に伝えられた。

「お祝いは何がいいのかしら? 産着? おしめもいくつあっても困らないわよね」

 私は、昔の千花の感覚で、なんだか会社の人への出産祝いみたいな、残念な案しか出てこなかった。


「……おしめは、流石に国家間のお祝いとしては、どうかと」

 困ったような表情をして、ルリが曖昧に笑う。

「でも、産着は良いかもしれませんね。特に男児であった場合には、後継の誕生と意味も持ちますから、それはレースをふんだんにあしらった、豪奢な産着は良いかもしれません」


 と、そんな話をしていると、陛下も私の部屋を訪ねてきた。

「急に来て済まんな。かの国の慶事のことは聞いたか?」

「はい! ルリと一緒に、お祝いを何にしようか、お話ししていたところです」

 ソファに座って話している私たちに加わるように、陛下もソファに腰を下ろした。


「それで、何か良い案はあったのか?」

「はい、お披露目に合うような、豪奢な産着はどうかと……」

 陛下が問うてこられたのに対して、ルリが回答した。

「そういえば、その前に、赤ちゃんの肌に優しい上質なおくるみやショールはどうでしょう? あ、あと、私の元の世界には、こんなお祝いもあるんですよ!」

 そう言って、私は、紙とペンを取り、『オムツケーキ』を披露する。

「「これはなんだ(でしょう)?」」

「オムツを、バースデーケーキの形にするのよ! 赤ちゃんの肌はとても繊細ですわ。上質で柔らかな布でオムツを作って、それを、お祝いのケーキの形に組み上げるのです。この世界では斬新さがありませんか?」


 と、そんな相談をしていたところで、ルリがハーブティーを出してくれたのだけれど……。

「うっ……、ちょっと、香り、変わった?」

 ルリには申し訳ないのだけれど、私は胸焼けを起こしてしまった。

「……? 俺にはいつものハーブティーに感じるが?」

「私も、いつもの通りにお入れしましたが……。あ!」

 そこで、ルリが、大きな声で叫んだ。

「陛下、妃殿下、もしや、ご懐妊の兆候では……!」

 ハッとして、三人で視線を交わす。

 言われてみれば、月のものがここ暫く来ていない。


 ガタン!と陛下が慌ただしくソファから立ち上がる。

「従医を呼んでくる! ルリは、ユリアをベッドに寝かせて安静にさせるように!」

「ハイっ!」

 私は、ルリに体を支えてもらいながら、ゆっくりとベッドへ移動する。

 そして、横に寝かされて、掛け毛布をかけてもらって、横になる。


 そうして待っていると、外の廊下から慌ただしい足音が近づいてきて、陛下と従医がやってきた。

 従医は、私に問診したり、妊娠すると兆候が出るという箇所を確認して回った。

「どうなんだ!」

 陛下は、待ちきれないと言った様子でイライラと医師に問い詰める。


 すると、医師は、一歩下がって、まずは陛下に、次に私に頭を下げた。

「妃殿下はご懐妊されております。おめでとうございます」

「でかしたぞ、ユリア!」

 私は、陛下から降り注ぐようにたくさんの触れるだけの口付けを受けるのだった。

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