第44話 無血開城

 私達は、飛竜に乗って、進軍中だ。私と陛下は、飛竜に乗った護衛に囲まれながら、やや後方を進む。

 先頭を行くのは四天王にして将軍であるリリスと、その近衛隊。リリスは、オディーを抱き抱えている。なぜって? この作戦の要がオディーだからだ。

 そして、飛竜に初めて乗る勇者たち三人組は、それぞれ分かれて、近衛隊に抱き抱えられながら同行する。


 地上から、投石器を使って、岩が投げつけられた。

「魔王の進軍を許すものか! 陛下に忠誠をお見せするのだ!」

 なんだか、張り切った領主らしき男と騎士団が喚いている。

 我々は進軍を止め、その地の周りを旋回飛行する。


「私は、王太子エドワードである! 民に慈悲のない父王に代わって、立ち上がった者なり! 我が意思に賛同するもの、無抵抗なものには何もしない。無抵抗なものは、武器を捨てて、その場を離れよ!」

 飛竜の上からエドワードが名乗ると、地上からは驚きや歓声、罵声が入り混じって飛んでくる。


「ええい、世迷いごとを! 王に忠誠を誓え! 子供の甘い言葉に惑わされるでない!」

 領主は戦う姿勢を崩す気はないらしく、周囲の騎士や兵士達を鼓舞しようとする。

 だが、平民で構成されている兵士を中心に、武器を捨てて、その場を離れていく。

「俺は、こんな食っていくにも苦しい国は嫌だ!」

「殿下は、この生きるだけでも苦しい我々を救ってくださるか⁉︎」

 その声に、エドワードが答える。

「時間はかかるかもしれない。でも、必ずや住みやすい国にして見せると誓おう」

 すると、平民や一部の騎士たちの歓声と、領主を中心とした罵声が湧き上がる。

「殺せ、殺せ、そして陛下に反逆者の死体を献上せよ!」

 領主は、狂ったように喚き立てる。


「ところがそうは、行かないにゃん」

 そこに、オディーである。

「我がにゃはオーディン、雷を司るもにょなり、我が制裁は聖女ユリアしゃまの制裁にゃ!受けよ!」

 そういうと、広範囲に、命は奪わないが、一定時間感電状態で動けなくなる程度の電撃の雨が、中央に残った対抗する意思のある者たちの頭上に降り注ぐ。


 ーー能書きはかっこいいけど、やってるのは電撃ビリビリ程度なのよね、この作戦。


「我らに賛同してくれたものは、動けなくなっているものを捕縛して、牢に閉じ込めよ。ことが済み次第、沙汰をだす!」

 エドワードの言葉に、わあっと、散った兵士や騎士が集まって、気を失っている領主たちを捕縛していった。


 私たちの進軍はこんな感じだ。


 各領地の兵は一枚岩ではない。無理矢理招集された民間人も多いし、圧政を苦々しく思っているものもいる。

 そこに、今のように、従うか否かで分断させ、逆らうものだけを、オディーのビリビリ攻撃で失神させるのだ。捕縛とかのひとまずの事後処理は、従ったその地の者に任せる。


 これで、サクサクと、王城まで進んでいくのだった。


 ◆


 やがて、王城へ到達した。

 王城入り口に集まる将軍、騎士や兵士も、今まで同様に、エドワードが改革の決意を見せて、分断させる。

 そこに、二人の少年と青年が姿を表した。

「兄様! よくご無事で!」

 それは、エドワードの同腹の弟、ユリシーズだった。

「殿下、無事で何よりです」

 怜悧な声で喜色を浮かべてエドワードを迎えるのは、青年神官トリスタンである。

「弟君は、とてもあなたを心配しておられました、よくぞお帰りくださいました!」

「俺は、父王に直訴する。この国のありようを変えるために、王になる。賛同してくれるなら、今は参戦しないで避けていてくれ!」

 エドワードが告げると、トリスタンはユリシーズを守るように、肩を抱き抱えて安全な場所へと誘導する。


 退避が済んだら、オディーの出番である。

「コホン、我がにゃは魔王領の守護神オーディン、雷を司るもにょなり、我が制裁は聖女ユリアしゃまの制裁にゃ!受けよ!」

 そういうと、電撃の雨が対抗する意思のある者たちの頭上に降り注ぐ。


 ーーあれ。口上がさらに物々しくなってるよ?


 エドワード達と、魔王軍は、そこでようやく飛竜から降りる。

「倒れている者は、命に別状はない。捉えて牢にでも詰めておいてくれ」

「わかりました!」

 残った騎士や兵士達が、縄を持って、倒れたもの達の捕縛に取り掛かった。


 それを横目に、彼らは王城内に進軍する。

 エドワードの弟と、青年神官も同行していた。


「兄様、父上はこちらに抜け道があると言っていました!」

 道案内をしてくれるらしい。

「枢機卿も同行しているはずです!」

 トリスタンも、内部情報を教えてくれる。


 国を憂えていたものは、いた、と言う事なのだろう。

 きっと、彼らがこれからこの国を担うエドワードを支えてくれる。


「なぜ、扉のカラクリが動かんのだ!」

 苛立って怒鳴りつける男の声がした。


「父上!」

 エドワードが、ようやく父王と枢機卿を追い詰めた。

 逃げ道に続くらしいカラクリ扉は、開かない。


「は、は、は。息子が親の王位を簒奪するか! わしを殺して、王になるか! わしの傀儡で居れば良いものを、入れ知恵されおって」

 嘲笑に満ちたその顔は、父としての慈愛のかけらもなく、エドワードとユリシーズを傷つける。


「愚王の次は、血に濡れた狂王。この国らしくて良いわッ!」

 国王はそう言うと、剣を鞘から抜いて、エドワードに斬りかかる。仕方なくエドワードも剣を剣で受けて応戦するが、逃げるばかりではキリがない。

「父、上、……私に、あなたを、殺させないでください! それが、あなたから受けられるただ一度の愛情だとしても!」

 エドワードが、衰えたとはいえ、父である大人の剣を受けるには厳しく、冷や汗を垂らしながら懇願する。

「父上!僕も、兄上に肉親の血で手を濡らして欲しくないのです! ただ一度のお願いです! 抵抗をやめてください!」

 ユリシーズも必死に父王に懇願する。


 すると。


「ただ一度の愛情が、『殺させるな』か」

 国王は、自分が自分の子達に一度も愛情を注がず生きてきた父としてのあり方を、まざまざと思い知って、狂ったように笑って剣を捨てた。


「好きにすれば良い!」

 国王が言い放ち、大人しく捕縛される。それを見て、枢機卿も捕縛されたのだった。

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