第42話 対面
魔王城の入り口の門前、そこに、勇者一行はいた。
警備兵はいるものの、一触即発という雰囲気はなかった。
「勇者が来たのか」
門の奥から、男の声がした。そして、幾人かの人影が姿を現す。
「魔族領観光はどうだった。何か勉強になったか?」
そう言って話しかけてきた人物は、頭に三つのヤギのツノを持つ、黒髪黒衣に、力強さを感じさせる金の瞳を持った男、魔王ルシファーだった。
「お散歩ってわけでもないじゃろ〜? なんのためにわざわざここまで来たのじゃ」
そういうのは、二本のツノを持ち、ピンクの長い髪をツインテールにしているゴスロリ少女の魔族、リリスだ。
「面白い、本当に面白い勇者さんねえ〜。ユリアちゃんの言いつけ通りに、領民にちゃぁんと手をつけずにくるだなんて〜」
うふふ、と楽しそうに赤い唇に弧を描かせるのはアスタロト。
「私は、魔族領の宰相たるアドラメレク。交渉ごとがあるのでしたら、まず私を通していただきたい」
そう言って、孔雀の羽に全身を飾り立てた、美しい男が名を名乗る。
「俺が、勇者ユートだ。俺は、勇者だからといって、命令を鵜呑みにして魔王陛下を倒しに来たわけではないことを、まずはご理解いただきたい」
喧嘩をしに来たわけではないこと、それを相互理解しておかないと、交渉すら始まらないだろうと、ユートが、まず、前提条件を口にした。
「あいわかった。で、ユリアの件だが。やはり奪還する気か」
やや性急かとも思ったが、ルシファーからしたら一番の懸念事項である、それを尋ねる。
そこに、ユートとは別の若い少年が一歩前に出た。
「魔王陛下、私はエドワード・フォン・ノインシュタット。人間の国の王太子です。ユリア嬢の件については、魔王陛下と婚約中であることをすでにお伺いしております。また、貴領を旅させていただく中で、いかに彼女がこの領に必要とされており、かつ、陛下と仲睦まじく過ごしてらっしゃるかを聞きました」
そうか、と陛下がエドワードが言葉を区切った段階で合いの手を打った。
「ですから……、私個人としては、彼女の望まない事を無理強いするつもりはございません。ですが、国の父王や、教会は、彼女の帰還を望んでおります。そこで、ご相談の場を設けていただけないでしょうか」
「殿下……!」
どこか頼りなく、少年の幼さの残る想い人を、支えなければ、と思ってついてきたエリアーデは、感嘆に小さな声を漏らす。
勇者ユートにある意味横暴に引っ張り回され、世界を見て周った。その間に、彼女の愛する彼は、ただの少年から、自分の意見をしっかりと持つ、自分で
そこに、影に隠れていたユリアが姿を見せる。
「お久しぶりです。エドワード殿下、新たな聖女様」
現れたユリアは陽の光の元、健康な美しさを取り戻し、艶のある銀糸の髪に、頬はほのかに赤らみがあり、美しかった。魔王に引き寄せられて、身を預ける表情は幸福そのものだった。
「国では、謝っても謝りきれない無礼をしたと思う。許してほしいとは言えた立場ではないが……、幸せそうで何よりだ」
エドワードの心からの言葉に、ユリアが花が綻ぶように微笑んだ。
「ユリア様。エリアーデと申します。私は、ユリア様の後に聖女の神託を受けましたが、恥ずかしながら私の力はユリア様には遠く及ばず……、そのせいで、ユリア様を奪還せよ、と業を煮やした国王陛下と枢機卿猊下が暴走する顛末になってしまいました。私のせいで、お心を煩わせてしまい申し訳ございません」
エリアーデが、今回の『奪還劇』の経緯を説明し、謝罪し、首を垂れた。
そんなエリアーデの手を掬って、ユリアが両手を優しく握りしめる。
「きっと、陛下や猊下からは、心ないことも言われたでしょう……、辛い立場に立たせてしまったわね」
そう、後に残された彼女に対し、あの陛下と猊下が罵詈雑言を浴びせるなど、ユリアにとって想像に容易かった。
そして、その想像は正しかったようで、エリアーデの手を覆うユリアの手の甲に、ぽたぽたとエリアーデの涙がこぼれ落ちた。
「ルシファー様。この場に、敵意ややましい心を持つものはいないのではないでしょうか? 彼らも、相談事をお持ちの様子。中で、ゆっくり話し合いの場を設けませんか?」
エリアーデの涙をハンカチで拭ってやりながら、立ち話ではなく、王城の中で対話の場を設けようと提案してみた。
「そうだな」
陛下は頷くと、宰相であるアドラメレクに、面会の場の用意をさせるように命じたのだった。
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