第36話 開墾計画④

 お昼を食べたら、次は南部の開墾地へ向かう。

 飛竜に乗って飛んでいくと、地上で「おーい」と手を振って村人達が歓迎してくれた。

 ここの村は、ゴブリンと、少し体の大きいホブゴブリンだった。


「陛下と聖女様方、わざわざ御身をこの村にお運びいただき、恐縮です」

 村の取りまとめらしいホブゴブリンが、陛下や私達に挨拶をする。

「うむ。あまり緊張する必要はないぞ。畑の準備の方は整っているか?」

 陛下が尋ねると、村の代表のホブゴブリンが、ゆっくりとした足取りで、畑へと案内してくれた。


 うん、これだけ広々していたら、さつまいももいっぱい植えられそう!

「種子生成、さつまいも!」

 私が魔力を使うと、ゴロゴロとさつまいもが地面に転がった。


「さつまいも? 食べられる?」

「お腹すいた」

 わらわらと寄ってくるゴブリン達が、それらを手に取って、まじまじと眺めている。


「ほーら、みんなよく聞いて〜!」

 ざわざわしていたその場がしぃんとなる。

「これは、畑に植えます。これを種芋っていうの。今から一気に育てるけれど、きちんと、次植えるための種芋は残すこと! あとは食べられるし、売ってもいいわよ!」

 そう宣言すると、小型のゴブリン達が、わぁぁっ!と嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねた。

 大型のホブゴブリン達は、地面から拾ったさつまいもをじっと見て、嬉しそうに笑っている。

「じゃあ、みんなで手分けして畑に植えてちょうだい!」

 私の指示に、みんながわーっと畑に駆け出して行って、せっせと芋を植えだした。


 うーん、ファンタジーのモブ敵の定番といったらゴブリンって感じだけれど、普通に村で集落を作って生活をしている彼らはいたって普通の亜人であった。

 男女必要なところは隠すように、粗末ではあるが着衣しているし、ある程度の清潔感もある。

 確かに体は緑色をしているが、指示したことを実行できるし、喋るし、感情もある。

 むしろ愛嬌がある感じで、ちょっとびっくりした。


 側にゴブリン達がいないので、隣にいる陛下にこっそりと声をかけた。

「ゴブリンというと、低級の魔物のように思ってきましたが、違うんですね。あんなに一生懸命働いて、生きている」

 畑で種芋を植える彼らは、陛下や私の言葉を信じて一生懸命だ。自分達が食べていける未来を夢見て頑張って畑仕事をしている。

「そうだな。彼らは土地にも恵まれていないし、人間に侵攻されるとなると、真っ先にターゲットにされる、弱い種族だ。だが、ああやって一生懸命生きている。俺はそういう民を、守りたいと思う」

「そうですね」

 私が陛下に同意すると、陛下が微笑んで私の手を握ってくださった。

 と、ちょっと幸せな時間だったのだけれど、残念ながらタイムアップみたい。


「陛下! 聖女様! 芋を植え終わりました!」

 畑で、大柄なホブゴブリンが手を振っていた。

「私、行ってきますね!」

 陛下に笑いかけてから、私は急いで畑の方へ向かう。


「じゃあ、一回育ててみるわよ! 成長促進!」

 すると、緑の芽が出て勢いよくさつまいもの葉が畑に生い茂った。

「ん? 葉っぱになるのか?」

 その様子を見て、ゴブリン達が首を捻る。


「ふふふ。これからが本番! さつまいも掘りよ! 茎を引っ張って見て!」

 私が言うと、私の周りで様子を伺っていたゴブリン達がわぁっと勢いよく畑の畔に駆け出していく。

 そして、それぞれ茎を引っ張って、さつまいもを掘り起こす。

「一個がこんなにたくさんに増えたぞ!」

 わあわあ騒ぎながら芋掘りをしているのは、まるで小学生が芋掘り体験をしているかのような無邪気さだ。

「みんな〜、お芋だけじゃなくて、茎も食べられるから、柔らかい部分は葉っぱを取り除いて収穫してちょうだい!」

 そう、さつまいもは茎も炒めたりして食べられる。

 茎まで大切にすれば、彼らは芋からはわかりやすくカロリーを、茎からは、いろいろな栄養素を得られるだろう。


 そして、私は、コボルト村の時のように厨房を借りる。

 茎で炒め物を作ったり、骨で出汁を取った茎と細切りにした芋を入れたスープを作ったり。お肉と茎を一緒に炒めたり。芋はもちろんふかし芋も作る。

 残念ながら、まだ貧しい彼らの厨房にオーブンはなかったから、さつまいものプリンは作れなかったけれど、何年もたてば、小さなオーブンを村に持てるようになったら教えてあげたい。

 ゴブリン達は、お腹が膨れる上に、甘いさつまいもが気に入ったようで、ぺろりと平らげてくれた。


 そして、お約束の、陛下の宣言だ。

「今後三年間はこの村は納税を免除する! そして、食べて余った収穫物は、自由に他の街や村に売買して構わんし、王宮に購入希望を出しても構わん!」

 陛下が、村の隅々にまで聞こえるよう、高らかに宣言をする。

 再び、わぁぁっ!と村が歓喜の声で沸いたのは言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る