第35話 開墾計画③

 コボルト達の村を出発したら、次は、陛下オススメの景色の良い場所でピクニックをする予定だ。

 バサリと飛竜達が翼をはためかせながら、ゆっくり下降していく。

 陛下に支えていただきながら、私は地上に降りた。


「うわ〜! 凄いわ!」

 そこは、緑や小花に覆われた小高い丘で、魔王領の平野部を一望できたのだ。

「さっきのコボルト村は、あそこだな」

 陛下が、私の背後に立って、片手は私の肩に載せ、反対の手で、小さな村を指さした。

 コボルト達が米粒のように、ちょこちょこと走り回っているのが可愛らしい。


「オディー、敷物を敷いてくれる? ご飯にしましょう」

 そう言うと、ご飯に釣られてオディーは、小石のなさそうな場所を選んで、いそいそと敷物を敷いてくれた。

 バスケットを真ん中に置いて、陛下、リリス、オディー、私の四人が座る。

 私がバスケットを開けると、出てきたのは、サンドイッチと唐揚げ、ミートボールに、甘い卵焼きと、プチトマト。


 サンドイッチは、前に作った柔らかいパンを、四角い型で焼いて作った。この型は、宮廷鍛治師のドワーフさんにお願いしたら、快く引き受けてくれたの!

 具は、定番のたまごサンド、ハムとハムの間にマヨネーズを塗ったもの、そして、ポテトサラダを挟んだものの三種類だ。

 唐揚げは、ガーリック味。

 ミートボールは、煮詰めたトマトソースを絡めてある。


「おおー! 色々あるのじゃ!」

 リリスが、早く食べたそうに、両手をわきわきさせている。

「見たことがないものが、いっぱいにゃー!」

 オディーは、サンドイッチ以外のものに手を出す気なのか、すでにフォークを装備済みだ。

「人数が増えたせいで、大変な量になってしまったな。だが、ありがとう」

 陛下が、私を労うように、私の手に、彼の手を重ねる。

「じゃあ、我慢できない者達がいるようなので、いただこうか」

 陛下のその言葉を皮切りに、素早く他二名(?)の手と前足が伸びた。


 リリスは、卵のサンドイッチを手に持っている。

「これは、ユリアのパンとパンの間に、具を挟んだのか?」

 じぃっと間に挟まったものを観察するリリス。

「茹でた卵を粗くみじん切りにしたものに、マヨネーズを混ぜたものですよ」

 ぱくり、とリリスが一口、可愛らしく齧り付く。

 すると、目をぱちぱちさせて、「んぐんぐんぐー!」と叫んでいる。

 何かと思ったら、きちんと口の中のものを飲み込んでから、「美味いのじゃー!」と叫んだ。

 そういうことらしい(笑)


「ほう、そんなに美味いのか。俺もいただこうか」

 そうおっしゃるので、私が取って差し上げた。

 ぱくり、と陛下がサンドイッチを齧る。すると、陛下の口の端に、とろりとはみ出た黄身がついてしまった。

「陛下、お口の端に」

 普段とのギャップに、ちょっと可愛い、と私は思わず微笑みながら指摘する。

「ん……?」

 陛下は指で口の端を探すが、なぜかちょうどその場所だけには指がいかない。

 つい、手助けをしたくなって、私が手を伸ばす。

「ここですよ」

 そう言って、指で掬い取ったものの。


 ――これどうしよう。パクってするのも、間接キスっぽくて恥ずかしいし。


 すると、私の手首が陛下に拘束されて引き寄せられ、指先をぱくり、と食まれ、指先の卵フィリングは舐め取られてしまった。

「美味かった」

「――っ!」

 いきなりの大胆な陛下のなさりように、私は耳まで真っ赤になる。

「何を恥じらう。なんなら、口付けで舐めとってくれてもよかったものを」

 恥いる私をおもしろそうに揶揄して、陛下がちょっと意地悪な顔で笑う。そして、卵のサンドイッチを完食された。


 ならば、仕返しが必要だろう。

 コホン、と一息ついて、私はフォークを手に取り、一口大のミートボールをそこに刺す。

「陛下、あーん、なさいませ」

「は?」

 陛下が、意表をつかれたように、身をのけぞらせる。

「は? ではありません。お口を、あーん、となさいませ」

 私は、くすくすと笑いながら陛下ににじり寄る。

 陛下は、諦めたように、ふう、とため息をつくと、素直に口を開いて見せた。

 そこへ、ミートボールを放り込む。

「ん。肉だが、柔らかくて食べやすいな」

「はい、肉を微塵になるまで叩いたものを、練って揚げました。これだと、クズ肉や硬くて食べにくい肉でも美味しく食べることができます」

 そんな会話を耳にした二人組(?)が、またもや手と前足をミートボールに伸ばす。

「おお、柔らかいのじゃ!」

「うみゃー!」


 バスケットの中の食料は全て完売し、食後の休憩に入る。

 リリスとオディーは花畑を駆け回って、追いかけっこでもしているようだ。

 私達は、並んで下に広がる領地をみろしている。

「俺はこの領地に住むものを、幸せに生活させてやりたい。ユリア、共に手を取り合って……、そんな俺と共にいて欲しい」

 そう言って、私の手に、陛下の手が重なる。

「はい。陛下のお優しい理想は、私の理想でもあります。側に、おります」

 私がそう答えると、陛下は幸せそうに笑って、私の唇に唇を重ねるのだった。

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