第31話 その頃の王国サイド⑤

「ユリアは、私に婚約破棄をされた挙句、未婚の魔王の『花嫁』という名目で人質同然で魔王領に送られたんだ」

 ため息をつきながら、エドワードが事情を語り出す。

「それをまたどうして返せなんてことを言い出しているんだ」

 ユートまで呆れてため息をつく。しかもそのために沢山の犠牲者を出して勇者召喚なんて、いくら何でもやることなすこと浅はかというものだろう。


 そこに、エリアーデが話に入ってくる。

「ユリア様は、私を遥かに上回る力をお持ちでした。日々、この国全体を聖魔法のバリアで覆うという、私にはなし得ない偉業と、教会では最上位の回復魔法を行使しておられました」

 エリアーデは、聖女としての役目を十分に全う出来ない自分の非力さを責めているのだろうか、膝の上でぎゅっと拳を握り込む。

「魔法行使で消費した魔力は、休むことでしか回復できません。恐らく、回復速度が使用速度に追いつかなくなったのでしょう。ユリア様は、魔法行使するたびにお倒れになられるようになりました。……そんな時に新しい聖女に認定されたのが私です」

 握りしめた拳はそのままにして、エリアーデが俯いた。


「父王と枢機卿は、『代わりに聖女が与えられた』と喜び、ユリアのことは半ば使い捨てにし、私とエリアーデの婚約を……、聖女を挿げ替えることを思いついたのです。私も愚かで、その命令を鵜呑みにしてしまいました。私が、エリアーデに恋をした、と言う自分勝手な理由もありますが……」

 そう言うと、エドワードは、きり、と唇を噛んだ。


「でも、なんで返せなんて話になるんだ? ユリアの力は失われたんだろう?」

 ユートは、首を捻る。力が弱いといってもこの国にはエリアーデがいる。力がなくなった聖女を取り戻す理由などないだろうに。

「……それが、力が戻ったようなのです。要は、恐らく、『慢性的な枯渇状態』であっただけで、『失った』訳ではなかったようなのです。その噂を聞きつけ、父王と枢機卿が取り戻そうと躍起になったという訳です」


 エドワードの言葉を聞いて、ユートが深く深くため息をついた。

「……この国、その二人カシラに置いといちゃダメだな」

 ユートから発せられた、叛意とも言えるその言葉に、エドワードとエリアーデは、はっと顔を青ざめさせる。

 その二人に顔を寄せ、有無を言わせないほどの強い眼差しで、二人を射る。

「まあ、とりあえずこれは保留。少なくともお前達は、今はもう馬鹿な傀儡じゃない。いざって時は、腹を括れ。それが王太子として育てられたお前の責務だ。王たる者、それに準ずる者には、税を納めさせる代わりに臣民を守る義務があるんだ。いいな? 俺はそれを条件に力になる」


 エドワードとエリアーデは互いに顔を見合わせる。まだか弱き少女であるエリアーデは、その手が小刻みに震えている。

 震えるその手に、彼女を励ますかのように、もしくは自らを奮い立たせるかのように、自分の手を重ねるエドワード。


「……わかった。いざとなったら、私は、父を廃そう。勇者ユートよ、私の、この国の力になってほしい」

 そこで、ちょっと待ってと言うように、ユートが片手でエドワードを制した。


 ――先に人を焚き付けといて何だけど。自分の能力を知っとかないとな。

 大体、お約束なら、これで俺の能力が見えるはず……。


「ステータス」

 ユートの思った通りだった。彼の目の前に、青く透けるホログラムのようなステータス画面が現れたのだ。


【ユート・カンザキ】

 勇者 LV.99

 体力:9999/9999   魔力:9999/9999

 スキル:斬鉄剣、殲滅剣、威圧、火魔法、水魔法……


 ――えっと、斬鉄剣って何。つまらぬもの斬っちゃうの、俺。

 それと、このカンストみたいな値は何だよ。


「……勇者、様?」

 エリアーデが恐る恐るユートの顔色を窺う。

「ああ、いや。大丈夫。お前達を守れるくらいには、俺強いみたいだ」

 ユートがそう言うと、エドワードとエリアーデの二人の顔色が明るくなった。

「勇者殿、それで、この先どうするおつもりで?」

 エドワードが、ユートに状況の打開策を尋ねる。


「まずは、お前達は、国王に謝罪をする」

 なっ! とユートの言葉にめくじらを立てそうになるエドワードを、エリアーデが全身で抱き留めて押さえる。

「……先を、ご教授ください」

「贖罪の証として、俺、勇者の聖女ユリアの奪還の任務を手伝いたいと申し出るんだ。俺もとりなす。上手くいけば、三人でまずはこの城を脱出できる」

 ユートの言葉に、二人が息を飲んだ。そして、深く頷いた。

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