第27話 その頃の王国サイド③

 ノインシュタット城地下深くの窓ひとつない『召喚部屋』。

 そこで、今まさに勇者召喚が行われようとしている。

 召喚陣を囲んでいるのは、大勢の魔術士達。


 ――彼らは、自分達が召喚の犠牲になるとは教えられていない。

 純粋に、『勇者召喚』を行う、国を救うための偉業に携われると、希望を胸に抱いてその場に臨んでいた。


「始めよ」

 そう命ずる国王の一声で、召喚呪文が魔術師の口々から発せられ始める。

 純粋で従順な魔術士達が願うのは、『勇者の手によりこの国が救われること』。

 そして、呪文を唱え終え、魔力を全て捧げきった者から、次々にこと切れて、その場に崩れ落ちていく。

 全ての術者が事切れた時、召喚陣の中央から、強い光の柱が立ち上がり、それが収まると、そこには黒髪黒目の青年が床に腰を下ろした姿で現れたのだ。


「「おお! 勇者召喚に成功したぞ!」」


 ◆


 ――はぁ?


 召喚された青年は、現代日本からごく普通に仕事をしている最中に召喚された。


「ここどこだよ」

 仕事のアイディアがひらめいて、ちょうど乗っていたところだったのだ。そこを邪魔された。彼は、その瞳に怒りもあらわして隠そうともせず、国王と枢機卿を睨みつける。

「ここはノインシュタット城の召喚場だ。其方は誉ある『勇者』として、我が国に召喚されたのだ!」


 ――誉れ、ねえ。


 俺は、神崎優斗。こちら的にいえば、ユート・カンザキだろうか。


 ――俺、人生絶好調だったんだよね。

 クラウドを用いたWEB技術の開発で第一線を走る、新進気鋭の俺の憧れの社長。その人の元で働きたくて、学生の頃からインターンとして潜り込んだ。そして、なんとか社員登用もされて、やっと、憧れの社長自らが陣頭指揮をとる新規プロジェクトの一員に抜擢されたところだった。

 可愛い彼女もいる。


『勇者召喚』ってさ、あれだろ。ラノベとかいうのによくあるやつ。

 あれってさ、自分の現状にうんざりしてるやつが召喚されて、新世界で俺TUEEEEやらハーレムを満喫するってのがセオリーじゃなかったっけ?

 とすると、俺はお門違い。大迷惑。さっさと帰らせろ。俺は忙しくも楽しい日々を送っているんだ。


 ――それと。

 この夥しい死者の数。魔法使いのようにも見える男達が、俺の周りでゴロゴロ倒れていた。呼吸する動きが見えないあたり、死んでいるのだろう。

「其方はこれから魔王城へ行って、攫われた聖女ユリアの奪還に向かうのだ!」

 死者がゴロゴロいるというのに、それを意に介さず、横で身分の高そうなジジイ達が喚いているが……。


 ――これは、信用していいタイプのものか怪しいな。

 それが、俺の結論だった。


「帰してくんない? 俺、おっさん達の都合に付き合ってる暇、ないんだわ」

 召喚に成功して、喜んでいる二人の喜色満面の笑顔が、驚愕の表情に変わる。二人の顎がハズレそうなほど大きく開げられている。

「いやいや、勇者殿、あなたには聖女を救うという大切なお役目がございます! 武器や装備といったものを見繕わせましょう。その準備が整うまでは、我が城にご滞在ください」

 国王らしい(王冠をつけたジジイだから)男に、俺は引き止められる。


 ――ま、帰す気がないって言うなら、情報収集でもさせてもらいますか。


 俺は、まずは言われるがままに、武器や防具のサイズなどを測られ、それが済むと勝手に城内をぶらぶらとさせてもらった。


 ――まずは、帰る方法を知ってるやつを探さねーと。

 と、城内をぶらぶらしていると、広そうな部屋の割に、やけに『出入りを封じている』といった体の部屋を見つけた。

「おい兵士。この中には誰がいるんだ」

 背の高い護衛兵が、ギロ、と上から見下ろしてくる。

「勇者様がお尋ねなんだがな」

 兵士の態度にイラッとした俺は、国王に身分証にするようにと渡された、勇者の証であるというプレート付きのネックレスを、兵士の顔の前にくっつくほどに見せつける。


「はっ! 勇者殿であられましたか! ここには、軟禁を命じられております、エドワード王太子殿下とその婚約者のエリアーデ様がいらっしゃいます」


 ――王太子ってあれだろう。国王の長男。後継ぎ。

 それを軟禁ってどう言うことだ?

 俺の勘に何かが引っかかった。

「勇者の命令だ。俺を中に入れろ。じゃないと……」

「――っ!」

 さっと懐から護身用ナイフを取り出して兵士の首筋にあてる。


 俺は、その部屋に入ることに成功した。

 外の騒ぎが聞こえていたのか、若い男が、若い女を庇うようにして、警戒していた。

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