第25話 ポテトサラダ
オディーの魔力操作の訓練は連日行われ、練習時間が終わると離宮に帰ってくるという生活が続いていた。
そんなオディーのいない昼間、陛下にお約束している『芋料理』作りをすることにした。
マヨネーズも完成しているし、ポテトサラダができそう。
ポテトサラダと言ったら、ハムかベーコン、ソーセージとかの肉類が欲しいわね……。
と思ったら、さすがは歴史ある保存食達、この世界にも似たようなものが存在していた。『ブラッディピッグ』とかいう豚に似た魔獣で作っているということは気になったけれど、味見をさせてもらったら、少し肉が硬めなのと塩分が強いのを除けば、ほとんど千花が日本で馴染んできたものと変わらなかった。
最初はハムで作ろうかしら。
そう思って、ハンスに塊の状態で保存されているハムを一切れ薄く切り出してもらった。
あとは、この間畑に作った野菜。きゅうりに、にんじんに、プチトマト。ちなみに、オディーの大好きなプチトマトは、彩りのために飾りにしようと思っている。
水魔法で出した純水で、じゃがいもと採れたての野菜達を洗う。
私の水魔法は生活魔法レベルしか使えないのだけれど、この世界の水の衛生度がよくわからない以上、やはり『純水』を出せるだけでも、とても便利なのよね。
厨房のマリアに、必要になるお鍋や鉄串、ボウルやザルなどを出してもらう。流石に、しまっている場所までは把握できないものね。
コンロに鍋を置き、皮付きのじゃがいもを二個入れる。そして、じゃがいもに被るぐらいのお水を注いで、火をかけて水から茹でていく。
その間に、別にお湯を作って、薄く一口大に切ったにんじんをさっと湯掻いておく。
やがて、じゃがいもに鉄串がとおるようになったら、じゃがいもを取り出し、熱いうちに皮を……と思ったら、マリアに慌てて、静止された。
「ユリア様の御手に火傷でもさせたら大変です! 私が代わりにやりましょう!」
じゃがいもの皮むき作業はマリアに奪われてしまった。
――ん? 私回復魔法の専門家(聖女)よ? 火傷ぐらい治せるわよ?
と、私は安易に思ったけれど、多分、『火傷をさせてしまう』こと自体が心配なのだろう。私は素直にマリアの好意に甘えることにした。
じゃあ、その間にきゅうりをまな板の上でナイフで切ってと……。
きゅうりは、塩揉みをすれば、しんなりしてじゃがいもに馴染みやすい。だけど、せっかくのもぎたてきゅうりなのだから、シャキシャキの食感と甘みを活かしたかった。だから、薄い輪切りにしておしまい。
切り出してもらったハムは、短冊切りにする。
そうするうちに、マリアがじゃがいもの皮むきを終えてくれていたので、木べらでじゃがいもを潰していく。私は、少し固まりが残っているくらいが好きだから、粗めに。
あとは、きゅうりとにんじんとハムとマヨネーズを投入。丁寧にかき混ぜながら、味を見ながらマヨネーズの量を調整していく。
最後に、塩胡椒をミルで削ってそれも混ぜたら、完成!
ふっとあたりを見ると、いつものとおりにメイドや使用人達のギャラリーが出来ていたので、小さめの皿に小分けして、味見をしてもらうために配ることにした。ちなみに、プチトマトは小さめに切って、添えるだけになってしまった。
「これは美味しい!」
「この間のふかし芋とは全く味が違うわね。しかもしっとり滑らかだわ」
「この酸っぱいんだけれど、コクのある味のもとは何かしら?」
評判は上々。それに気を良くして、種明かしにみんなにマヨネーズの入った瓶を掲げて見せた。
「この間お預けだったこのマヨネーズというソースが、この料理の基本なのよ」
ハンスにお願いして、きゅうりを二本追加でもいできてもらった。
私は瓶の蓋を開けて、小皿に少しずつマヨネーズを盛る。そして、その横に綺麗に水で洗って水気を切ったきゅうりをスティック状に切ったものを、その皿に添えた。
と、その時、厨房の外から大きな声がした。
「ボクを置いて美味しいものを食べるなんてズルいにゃん!」
「美味しいものなら、アタシも誘うべきなのじゃ」
魔力訓練を終えてきた、オディーと、なぜかリリスもいた。
オディーとリリスは当然と言った態度でギャラリーを割って入ってきて、皿にもられたきゅうりを手に取る。
「ん? これはただの野菜じゃの。これがどうしたのじゃ……」
「うんみゃあああーーー!」
リリスが疑問を呈している横で、きゅうりのスティックでマヨネーズを掬って食べたオディーが叫んだ!
「リリスにゃん、これにゃ! この黄色いのがうみゃいのにゃ!」
オディーの力説する勢いに一瞬仰け反りつつも、リリスがマヨネーズを凝視してから、オディーと同じようにマヨネーズをきゅうりにつけて食べた。
――あれ? 何も言わない? お口に合わなかったかしら?
と思ってよく見ると、リリスは下を向いてプルプルと震えていた。
そして、ガバッと顔を上げて叫んだ。
「これは、美味しいのじゃ! 野菜なぞいらん。これだけ掬っていっぱい食べたいのじゃ!」
「いや、それはしちゃだめです。太っちゃいますよ!」
『太る』の単語に、ぴた、と暴走が収まって、リリスは自分の下腹部あたりを見た。
「……それは困るのじゃ」
結局、きちんとお話をして、今後は、お食事の温野菜なんかの添え物にしましょう、という所でリリスには納得してもらい、そのことを料理長であるハンスに伝えた。
魔王城で、マヨネーズにハマるものが続出したことは言うまでもない。
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