第15話 似たもの同士
――ユリアに礼をしたいのに、女が何を貰って喜ぶのか分からない。
ユリアの提案を採り入れ、時間に余裕ができたルシファーは、彼女に逢いに行くとともに、なにか贈り物をしたいと考えるのだが、何が良いのか全くわからずに、頭を抱えていた。
彼は、人と異なり長命ゆえ、長く生きているのだが……、残念なことに、その長い時を色恋とは無縁に生きていたのである。女性の喜ぶ贈り物など、知りようもなかった。
――仕事で多忙なのをいい事に、群がる女たちも拒否し続けてきたしな。
決して彼はモテない訳では無い。上位魔族は基本的に容姿に優れているし、彼もその範疇に入る。そして、この国を治める魔王という立場もあり、むしろ積極的に魔族の女に言い寄られた経験はあった。
けれど、着飾って権力に群がって言い寄る女性達のうちの誰にも、好ましさを感じることは無かった。
――仕方ない。アドラメレクにでも相談するか。
アドラメレクはアレでも妻帯者である。同じ四天王のリリスという名前で、軍部、魔導師軍の長を務めている、見た目少女の魔族が彼の妻であった。
――妻帯者なら、そこに至る過程については相談できるだろ……う? いや待て、私はそこまでは考えていない。まず、彼女に礼として、女性が喜ぶようなものを贈りたいだけだ!
「何、顔を真っ赤にして机に突っ伏しているんだい?」
そんな時、その相談しようと思っていた当人、アドラメレクが、ノックもせずに入ってきた。
「……ノックくらいしろ。ここは俺の執務室だぞ」
「だったら、君の宰相たる私が普通に入ってきてもおかしくはないんじゃないか?」
四天王とはいえ、部下だというのに、この男は全く悪びれもせず、ソファに腰かけた。
「で、君は一人で何をそんな百面相しているのさ」
そう言って、アドラメレクは孔雀の羽で飾られた扇子をルシファーに向けて仰ぐ。
――なんだか、コイツにだけは相談したくなくなった。
扇子をルシファーに向かって扇ぎながら話を促す、尊大とも言える態度に、一瞬嫌気がさした。
――が、背に腹は変えられないか。
「ユリアに、なにか礼をしたいのだが、彼女が何を貰って喜ぶのか分からないんだ」
溜息をつきながらルシファーが、悩みを吐露する。
「おや。我が主も、ようやく女性に興味をお持ちになられたか」
扇子を閉じ、それを顎に添えながら、アドラメレクがニンマリと笑みを描いた。
「――っ、女に興味……。そんなものでは無い。例の嘆願書の件で世話になったから、礼をしたいだけだ。……他意はない」
そう言って、ルシファーはアドラメレクから視線を逃す。否定する言葉と裏腹に、やや紅潮しているのも見て取れた。
これは面白いことになりそうだ。アドラメレクは、笑みが絶えない。
「そうですねえ……、陛下のお立場をもってすれば、いくらでも女の目を引く煌びやかな宝石は贈れましょうが……、そういうものは、身につける相手にあったものを贈った方がよろしい。でしたら、まずは、花がお好きなユリア嬢にあわせて、可憐な花束を持って訪ねては? そうして、彼女自身の好みを聞き出すか、彼女を見てのあなたの印象から彼女に似合うものを選ぶとよろしいかと」
散々からかうような言葉の後だったが、アドラメレクから発せられた提案は至極まともなものだった。
「少し、庭に出てくる」
――メイドにでも手伝ってもらって、花束を作らせよう。だが、花は自分で選びたい。
そう思って、ルシファーはアドラメレクに見送られて庭に出るのだった。
◆
「えっ? 陛下が離宮にいらっしゃる?」
ルリから、陛下の来訪の旨を聞いて、私は驚いた。
「陛下って、私に関心があったんだ」
真っ先に私の口から出てきたのは、そんな感想だった。
「まあ! なんてことをおっしゃるんですか。ユリア様は美しく賢く、素晴らしい能力もお持ちの稀有なお方。陛下がご興味をお持ちになるのも当然ですわ! ささ、ユリア様、お迎えのお支度をしましょう」
そう言って、ルリが私に着替えを促す。
ルリが先導して、二人でクローゼットへ向かう。ルリがその扉を開けると、アスタロトが贈ってくれたたくさんのドレスが納められていた。
私の髪が銀で瞳が淡い緑ということもあって、「どんな色でも似合うわね!」と、グリーンを筆頭に、淡い色合いを中心にした様々な色合いのドレスがあって、どれを選ぶべきか迷ってしまう。
「正直どれを着たらいいのか困っちゃうわ」
すると、陛下におくったサシェの残りのラベンダーのポプリが飾られているのに目がいった。
陛下とのご縁といえば、あのサシェくらいかしら? だったら……。
「この淡いラベンダー色の絹のドレスにしましょう」
「では、お髪にも、同じ色のレースでリボンを飾りましょう」
私が服の選択をし、それに対してルリが髪のセットのイメージを提案してくれる。
そして、私には最大の懸念があった。
――男の人とって、何を話したらいいのかしら?
アドラメレクは、彼自身が女性的な話題にも興味があることもあって、苦労しないのだが……。
千花の頃に彼氏がいたことはない。そして、ユリアも婚約経験があるとは言っても、あれは数には入らないだろう。
別に、男性恐怖症という訳ではない。千花の頃は、『仕事が絡めば』ちゃんと相手が異性でもコミュニケーションはとれていた。ただ、そこを離れると、どんな会話を男性が好むのかがわからないのだ。
その上、私は合計彼氏いない歴四十九年か……。
そして、初対面で、二人で会話……。
やばい、無理、逃げたい。
――私は陛下との時間を上手にやり過ごせる気が全くしなかった。
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