第14話 ジャパニーズ『カイゼン』②
ルリが、私と客人にカモミールティーを注いだカップを、邪魔にならないように提供してくれる。
このカモミールティーも、私が、畑で育てて乾燥させて作ったものだ。
その横で、私は、ルリに質問をしながら作った、嘆願書のフォーマットを、アドラメレクさんとアスタロトさんに見せる。
「「これは……」」
私が作った嘆願書のフォーマットを見て、アドラメレクさんとアスタロトが驚いたように声を上げる。
「まず、嘆願書は陛下の元へは届けません。しかるべき文官にでも、この区分のとおり、担当するにふさわしい部署に振り分けて、決裁させるのです。権限を委譲するんです」
その項目を見て、アドラメレクは感心したように呟く。
「確かに、嘆願書で進言されるものはいくつかに分類できるし、しかも、各部署の長が判断できる程度のものも多い。それらは、彼らに任せればいい、か」
アスタロトも彼の言葉に同意しているようで、繰り返し頷いている。
「そして、場合によっては、陛下に上申するとしても、その必要がない案件については、そこで審査は終了とするのです。それには、各部署の長達の善性を信用しないといけませんが……」
そこで、アスタロトが口を開く。
「問題なく処理されていることを抜き打ちでチェックするようにすれば、下手な専横もできないでしょう。これなら、陛下にばかり決裁が集中していることは、解消できるわね」
それにしても……と、アドラメレクが、感嘆のため息をつく。
「まるで、こういうことをユリア嬢と話していると、人間の令嬢と話していると言うより、優秀な文官と話しているような気分になるな」
その言葉には、私は苦笑いするしか無かった。
――まあ、会社員だった千花は文官といえばそんな感じかしらね。
「アスタロト! 早速これを採用できるように、……あ、ユリアちゃん、これをもとに少し弄らせてもらってもいいかな? 担当部署とか項目を少し増やしたかったりもするから……」
提案を弄るということについてだろうか、申し訳なさそうに、アドラメレクが眉尻を下げる。
「勿論構いません。実際に使う方々の使い勝手のいいようにしてください。私は、陛下がご多忙すぎるとお聞きして、それを解消して差し上げられれば、と思っただけ。それが叶うのであれば、何も異論はありません」
私は、四天王である二人ににっこりと笑って答えた。
離宮からの帰り道。
「……なあ、アスタロト」
「な〜に? アドラメレク」
「陛下の花嫁の問題も……」
「……うふふ、そうねぇ」
二人は、もうひとつの懸念も解消したらよいなと、笑い合うのだった。
◆
数日後。
「何? 嘆願書の処理の方法を変える?」
アドラメレクが手を入れて、やっとできた嘆願書の新フォーマットを持って、それを彼がルシファーの執務机の上に載せて彼に見せる。
当然、その話をユリアから一緒に聞いたアスタロトも同席していて、説明に加わってきた。
「そう! ユリアちゃんが、あなたが多忙すぎるっていうのを心配してね。素晴らしいアイディアを提案してくれたのよぉ。それがこれよ」
アスタロトが、ふふっと笑って、その書類を指先の爪でコツコツと軽く叩いて指し示す。
「ここの項目を見て、ルシファー」
そこは、ユリアが考えた、案件の内容を分類したものと、その書類を最初に決裁する部署を示した項目だった。
「この分類をもって、書類を決裁する部署を分ける。そして、すべてがルシファー、君の責務としていた決裁権を、各部署に移譲……決裁権を任せてしまうんだよ」
ルシファーは首を捻る。
「それでは、不正を誘発するのではないか?」
「そうね、任せ切りならね。抜き打ちでのチェック体制も設けるわよ。信頼するけど、信用しすぎない。その両方を用いて、不正への牽制にするわ」
ルシファーの懸念に、アスタロトが答える。
「そして、ここ」
コツン、とアドラメレクがルシファーの確認を要するかの項目を指し示す。
「本当に陛下の判断が必要な書類は、この項目をもって判断し、陛下に回ってくる。これで、陛下の日々忙しすぎる現状を変えられる。ほぼ、ユリアちゃんの発案だ」
そう言って、アドラメレクはルシファーに新しい嘆願書を手渡した。
「……君の体のことを心配してね」
「……人間の彼女が、私の心配を?」
――私は、彼女を人質とする者。その私の心配をするか。
「……本当に不思議な娘だな」
そう呟いて、ルシファーは楽しそうに唇を笑みの形に変えるのだった。
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