第13話 ジャパニーズ『カイゼン』①
陛下にサシェをお贈りした翌日、陛下から礼状をいただいた。
『日々のヒールと、良い香り袋をありがとう。昨夜はいつにないほど良い眠りをとることができた。本来、会って礼を言うところなのだろうが、時間も取れず申し訳ない。いつか、あなたと話したいと願っている』
――あら?会いたいと言われてしまったわ。
輿入れを名目に送られてきたのに、全く会いもせず、離宮で好きにさせているという扱いから、私には興味はないのだと思っていたけれど。
でも、会う時間も取れないほど忙しいって、どういう状況なのかしら?
そう言えば、ノインシュタットのエドワード様は、確か、魔王陛下はご結婚されていないと言っていたわね。
――結婚は不要っておっしゃっているらしいけれど、本当に忙し過ぎてそれどころじゃないのかしら?
まぁ、別に、見たこともない方と結婚したいとか、そう言う訳じゃないんだけれど。
今のスローライフは気に入っているし。
でも、そこまで忙しいってどういうことなのかしら?
もちろん、アスタロトもアドラメレクさんも、忙しい身ではありながら、時々、私の無聊を慰めにか、お茶をしに来てくれる。
彼のナンバー2達が来られるのに、魔王陛下は全く無理とは、どう言う状況なのかしら。
少し不思議に思った。
そんなある日、ルリが、「今度こそユリア様を図書室に入室可能にしてもらう」と言って、嘆願書を書いたんだと言って、それを見せてくれたのだ。
――何だこれ。
思わず、心の中で会社員だった千花の口調が出てしまった。
それは、ほぼフリーフォーマットだった。
あるのは、表題を書く欄と、フリースペース、署名欄、以上。
これじゃ中身をよく読まないと、作業割りもできないじゃないの。
しかも、残念なことに、ルリの嘆願書は、だいぶ読み進まないと、理解はできない書き方になっていた。
――まさかこういう書類を、全部最初に読むのが魔王陛下ということはないわよね……。
嫌な予感がした。
これ、完全にダメな仕事の仕方をしている気がする。
「ねえ、ルリ。この嘆願書は、提出したらどうなるの?」
提出するぞー!と意気込んでいるルリに聞いてみた。
「え?陛下の決裁を受けたら、各担当部署に回るんです」
――だめだこりゃ。
それは、陛下が動けない訳だ。
「ねえ、ルリ。ちょっとその書類、私に書き換えさせてもらっていいかしら? その嘆願書と新しい紙、筆記用具をくれる?」
ルリは首を傾げながらも、それらを用意してくれた。
――トップが全部見てから下に回すなんて、トップの人が過労死するわよ!
もと、日本の会社員だった千花の記憶が憤慨する。元々、主任としてチームを率いてプロジェクトを回してきたくらいには働いてきた、千花の血が騒いだ。
という訳で、まずは、どういう類の申請なのかチェックする欄を設ける。
「ねえ、ルリ。魔王領で申請されるものって、どういった内容が多いの?」
そこは、その領をよく知っている領民当人に聞いてみた。
「そうですね、まずは魔獣討伐とかの治安維持に関するもの、減税して欲しいとか納税に関するもの、飢饉などで食糧支援して欲しいとか……」
ルリは、いくつか思いつくものを教えてくれた。
まあ、魔王領と言っても、ノインシュタットとあまり変わらないわね。
なので、チェックするマーク(□)と、いくつかの項目をセットにした。
そして、その横に、まず審議すべき担当部署を補足として書く。
例えば、
『□討伐依頼(軍務担当)』、『□納税関係(財務担当)』、『□食糧支援依頼(国庫担当)』、『□その他』とかね。
「まあ! こうすれば、どこで審議するべきか、ひと目でわかりますね!」
「でしょう? それでも、陛下のご判断がいる時もあるから……」
『陛下の決裁 □必要 □不要』という項目をその下に書き込む。
「うーん。陛下が全部目を通さなくてもいいんですか?」
それが当たり前だと思っているルリは首を傾げる。
「だって、そこを陛下が部下に権限を移譲しないと、陛下のお仕事は減らないのよ。あ、移譲って、下に権限を譲って任せちゃうって意味ね」
「それはそうですね……。それにしても、ユリア様は本当に博識な方ですね。しかもその知識は、まるで泉のように溢れてきて……凄いです」
あとは、ほけっと感心しているルリに必要そうな項目を聞いて、フォーマットを完成させた。
――と、これを陛下にいきなり持って行っても、仕事を増やすだけだから……。
宰相のアドラメレクさんに見ていただきましょうか。
「宰相のアドラメレク様にお伺いしても良いか、聞いてきてくれる?」
すると、アドラメレクさんだけでなく、アスタロトも揃って私の離宮を訪ねてきた。
「なんでも、陛下の仕事の状態について提案があるって聞いたからね。二人で来てみたよ」
アドラメレクさんが、アスタロトを伴ってきた理由を告げる。
「本来は、四天王たる、部下の私たちが考えるべきことだからね〜」
そうして、二人を離宮に招き入れて、書類のフォーマット変更と、権限の移譲案について提案をすることになった。
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