第9話 小さな妖精 と 恋の切符

「…十夜…由都羽さんから…何か…聞いた?」

「由都羽?あー、うん告白されたよ」

「そっか……」


「……でも…もう一人の妖精が迷っているのか踏み込めないのか分からないけど何も言って来なくて」


「えっ!?もう一人の……妖精?」


「もう一人の妖精は本当は好きなのに想い伝えられないみたいで……ずーっと、そこで立ち止まったまま。勇気を出して一歩踏み出せば良いんだけどね」



「もう一人の妖精か……十夜は、モテモテなんだね。その妖精さんは、どうすれば勇気が出るのかな?」


「そうだね。友羽はどうしてあげたら良いと思う?」


「えっ?私?私は……」

「なんて…考えなくても良いよ」

「えっ?十夜は…どうしてあげたら良いと…」



十夜は歩み寄り、おでこにキスをした。



ドキン



「おまじないしてあげるかな?」

「おまじない…」

「そして背中を何度も押すかな?その子が踏み込めるまで」


「それでも…その子が踏み込めなかったら?」

「そうだなぁ~。そこまでは考えてなかったかな?」


「そっか……」

「でも…何回もおまじないしてあげるかもしれないな…勇気が出るまで」



頭をポンとする十夜。



ドキン……






胸が高鳴る瞬間(とき)


それは恋のときめき


私の想いは


溢れる想いでいっぱいだった




―――― 十夜 ――――




私の想いに気付いて


おまじないをしているの?





ある日の事、ファーストフード店にいる時の事だった。



「友羽ちゃん」



名前を呼ばれ視線を向けると、そこには敏樹先輩の姿。



「敏樹先輩…」

「どうしたの?一人?」

「うん…」

「ここ良い?」

「うん」


「何かあった?…もしかして十夜の事?」

「あ…ううん。大丈夫。違うよ」

「…友羽ちゃん、嘘つくの下手だね」

「えっ?」


「好きな人だから分かるのか…それとも本当に分かりやすいのか…考えてみたけど…ただ分かりやすいって感じだね?」


「敏樹先輩…」




私達は話をしていた。




「友羽ちゃん」

「ん?」

「今度、出掛けようか?2人で気晴らしに」

「えっ?」


「二人で気晴らしに行かない?」

「でも…」

「遠慮なんてしなくて良いよ。俺が誘っているんだから」

「…敏樹先輩…ありがとうございます」




そして、私はふと、由都羽さんの言葉が過る。




『敏樹は、私の想い気付いてて、それでも良いって』



「…先輩」

「何?」

「…あの…」

「うん、どうしたの?」


「…ものすごーく聞きにくいんですけど…先輩…由都羽さんの十夜への想いを知ってて、お付き合いしていたんですよね」


「えっ?あー…由都羽から聞いた?」

「はい…」

「そっか……」

「辛くなかったですか?」

「えっ?」


「だって、自分の想いはあっても相手の想いは自分になかったのに……」


「好きな人と一緒にいる時間があったから、それで幸せを感じてたし。本当、馬鹿だよなぁ~俺。相手の想いは一切ないのに良くやっていけたなぁ~て思うよ」


「…敏樹…先輩…。相手は好きじゃなくても自分の想い1つでやっていける力…恋の切符…片道しかないのに……」


「片道しかなくても途中下車が出来るから良いんじゃない?そこで往復切符を手に入れるのも1つの手かもしれないよ。な~んて」


「……先輩…。甘えて良いですか?」

「えっ?」

「試用期間の期限切れた?片道切符…試用期間の切符に出来ませんか?」

「えっ?片道切符を試用期間に?」

「……ご、ごめんなさい……無茶苦茶ですよね……気にしないで下さい」



席を立つ私。



「あっ、友羽……待っ…」



私の後を追う先輩。



「友羽ちゃんっ!待って!」



グイッと私の腕を掴む先輩。


ドキン



「…先…輩…」

「構わないよ」

「えっ?」

「だけど、友羽ちゃんが、それで良いのか?って話。過去に、似たような事あったみたいだし」


「…それは…。…でも…先輩も同じ事あったんですよね?だって…ある意味、由都羽さんと同じ状況ですよね……」



私は先輩と付き合う事にした。

















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