第6話 武器を作ってもらうよっ!

「ふう…そろそろ行くかな…」


苔むした大木にもたれかかり、先程のボス戦の疲れを癒やすのはもちろん私、早紀だ。

どうやら戦闘状態でなければHPは自動的に少しずつ回復する仕様のようで、少し休んでいる間にもうMAXだ。


ちなみに先程のウルフからの戦利品は魔獣の牙と上質な毛皮、そして『ブラックウルフの鎧』の3つ。経験値はなんと342も。これによって2つ一気にレベルが上がったので先ほどと同じように全ステータスに1ずつ振り分ける。

さっきもらった称号で2ずつ増えたので、現在のステータスは一律15だ。順調順調。


「あ、そうだ。さっきの鎧って…」


インベントリを開き、先程ブラックウルフからドロップした鎧を確認する。


《『ブラックウルフの鎧』

種別:全身鎧

等級:エピック

詳細:ざわめきの森の裏の支配者の革を用いて作られた鎧。物理攻撃への防御力が高く、傷の治りを早くする効果もある。また、ウルフが中立になる効果もある。

特殊効果:戦闘時を除いて、自動回復の効果が増す。


DEF +12》


あ、ウルフが敵対しなくなるのか。しかもエピックだし、結構いい装備なのでは?

とりあえず装備してみる。わざわざ着なくてもアイテムをタップして『装備』を押すだけで装備できるの、ほんとに便利。


「おー、これが…」


ブラックウルフのツヤツヤした黒い毛皮がふんだんにあしらわれた鎧。首周りには、ブラックウルフの首のあたりのふわふわした毛皮が使われていて、触り心地最高。

戦闘中からずっともふもふしたいと思ってたんだよね。そう思って頬をこすりつけてみる。うん、最高。至福。

まあ、夏は暑そうだけど。


あと、金具とかも結構使われてた。その金属がどこから来たのかは考えちゃいけないんだね、きっと。


「よし、街に戻ろう!」


バトルはとりあえずもう満足!次は街の探索じゃ!



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「一本30円だよ!」

「安っ!じゃあ三本ください!」

「なら90円だ!まいどありぃ!」



香ばしい香り漂わせる串の入った袋を受け取ると、視界の左下に所持金が表示され、-90円されて消える。直接お金を払わなくてもいいの、便利だわ。


今私が買ったのは、露天で売ってた焼き鳥っぽい串だ。

店主のおじさんNPCから手渡された袋から一本取り出し、湯気を立てるそれを一カケラかじる。


「んー!!おいひい!!」


炭火で焼いた香ばしい香り、かじった瞬間に溢れる肉汁、肉の味に絶妙にマッチする濃厚なタレ!美味い。美味すぎる。こんなに美味しい焼き鳥初めて食べたかもしれない!


しかもそれがたった30円だなんて…流石はゲーム内の世界。現実世界だったらこんなの絶対に食べられない。こりゃあUTOPIAに感謝だね。この串だけでもこのゲーム買ってよかったって思えるもん。


焼き鳥をかじりながら私が次に向かったのは『鍛冶屋ヘパイストス』と書かれた看板のあるお店。木剣は壊れてしまったし、他の装備も整えたいからだ。


焼き鳥串を口に咥え、残りの二本の入った袋を持っていない右手で店の扉を押し開ける。


「おじゃまひまーす…」

「いらっしゃい!」


店内に入ると、迎えてくれたのは元気な店主のオッサン。ムキムキマッチョの坊主頭で、手には鍛冶用と思われる金属製の細長いハンマーを抱えている。見る限り、種族は人間そのままのようだ。まあ、気づきにくいところに特徴がある種族なのかもしれないけど。


「今日はなんの用で?」

「あー…もぐもぐ…今日このゲーム始めたばっかりなので初心者用のオススメ装備とかあれば…もぐもぐ…と思って。あと、初期装備の…もぐもぐ…剣が…もぐもぐ…壊れちゃったので…」

「うん、食べるか喋るかどっちかにしな」

「もぐもぐもぐもぐ…」

「食べる方選ぶのかよ!!」


うん、そう言われたら普通は食べる方を選ぶでしょ。ここまでがテンプレ。あ、いつもは「ここからが天ぷら」って言ってくれる梨沙は今日はいないんだった。もぐもぐ…



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「で、木剣が壊れたから代わりになる武器がほしいってのと、適当に防具見繕ってほしいって用件でいいか?」

「いえす!」

「うん、まず2、3個ツッコんでいいか?」


このマッチョのおじさん、鍛冶屋のNPCかと思ったらプレイヤーらしい。ユーザーネームは『Hephaestus』――ヘパイストス。神話に出てくる鍛冶の神様の名前だよ。それほど自分の鍛冶の腕に自信があるのか…っていうか、それもう完全に鍛冶する目的でこのゲームやってんじゃん?って思った。


「まず、その鎧は?見たところエピックぐらいのレア度はあると思うんだが…初心者だって言うなら、どこで手に入れた?」

「ざわめきの森?とかいうところのブラックウルフってボスを倒したらドロップしたんですよ―――」

「ざわめきの森?あそこのボスはホワイトウルフだったと思うが…」

「え?でもこれ…あ、脱いで渡すんで見てみて下さい」


メニューを開き、『ブラックウルフの鎧』をタップして『装備を外す』を選択。


「あ、馬鹿!」

「へ?…あっ」


外してから気付いた。現実世界で過ごしてて、服を脱いだらどうなるか。答えはもちろん…


「うおおおおお!?ちょ、見ないで下さい!!」

「見てない!見てないから!とりあえず初期装備でもなんでもいいから装備しとけ!」


そう。初対面のオッサンの前であられもない姿を晒すことになったのだ。


いやぁ…実際に脱ぐわけじゃなくてボタン一つだから完全に失念してた。まあ、下着だけは最低限の装備として手で直接じゃないと外せない仕様になってたのが不幸中の幸いか。この機能がなかったら露出狂としてBANされてたかもしれない。


急いでメニューを操作して初期装備の皮の鎧を装備した私は、ブラックウルフの鎧をオブジェクト化してヘパイストスさんに手渡す。


「服着たか…?…今度からは、装備を外すときは別の装備を装備すること。間違っても『装備を外す』ボタンは人前で押すなよ?」

「はい…反省してます…」

「まあ、俺はマジで何も見てないから安心しろ、な?」


実際、ヘパイストスさんは私が『装備を外す』ボタンを押す一瞬前に首を90度回転させて全力で視線をそらしてくれていた。見た目に反して紳士じゃん、オッサン。


「って、マジじゃねえかこれ…。ブラックウルフなんて聞いたこともねえ…。もしかして裏ボスか…?おい嬢ちゃん、名前は?」

「サキです」

「サキ、森に入って何をした?」

「何って…ログインして、森に入ってウルフをいっぱい倒して…そしたらブラックウルフが出てきたから頑張って倒して帰ってきたんですよ」


軽く思い出しながら私がそう言うと、ヘパイストスさんは呆れたような顔をして、


「街の探索やらも何もなしにログインしていきなりざわめきの森に入ったってのか?」

「その、ざわめきの森が実は3つ目のフィールドだっていうのもさっき教えてもらったばっかりなんですよね。ネタバレが嫌で全然攻略情報とか見てなかったので手探りで…って感じです」

「完全初見でボス倒せましたってのか…?」

「いや、めっちゃ大変だったんですよ!避けれない咆哮攻撃とか、風属性っぽい攻撃とか…しかもワンミスで死ぬの確定ですからね…」


私だって余裕でボコったわけじゃない。めちゃくちゃ苦労して、時間かけて頑張ってやっと倒したのだ。


「うん、普通はログインしてすぐだったらボスどころかウルフ一匹が相手でも勝てないんだよ。レベル1の反応速度だったらウルフの突進に反応できなくて殺されて当たり前なんだよ」

「レベル1の反応速度って?」


私が見た限りでは、レベルアップによる変化としてはステータスポイントが4もらえるだけ。他には特になかったと思うけど…


「はあ…お前マジでなんにも知らないのな。いいか?レベルが上がるとだな…」


ヘパイストスさんが教えてくれた内容は次の通り。


・レベルが上がると、戦闘中の思考速度が元々の速さを元にしてアップする。何%上昇とかそんな感じ。

・これは、レベルが上がってスピードが上がった戦闘に対応するため。ヘッドギアの機能の一つで、VR空間内での思考速度をアップさせることができるから。

・これは数値化されているわけではなく、ただ内部データとして元の反応速度に倍率がかかっていくシステム。

・プレイヤーが敵の存在を認識したり、ダメージを受けたりするとこの機能が発動する。

・プレイヤーが戦意を喪失、もしくはある程度の範囲内に敵がいなくなったらこの機能は自動的に終わり、元の思考速度に戻る。


「ああ、道理で…」


ウルフラッシュの時、少しだけだが敵の動きの速さがガクッと落ちることが何度かあった。今思えば、あれがレベルアップの瞬間だったのだろう。


「もしかして、それにも気付かずに戦ってたのか…?」

「えへへ」


普通に考えて、一番最初にエンカウントしたウルフと最後の方のウルフを比べたら明らかに動きの速さ違ったわ。


「はあ…まあいい、で?何か使いたい種類の武器とかはあるのか?」

「武器の種類ねぇ…何があるんですか?」

「このゲームだと大剣、剣、短剣、細剣、槍、斧、ハンマー、棍、杖、ブーメラン、弓…あとは、変わり種で鎖鎌とか鎌とかナックルとか刀とか…ああ、銃作ろうとした奴もいたっけな」

「オススメは?」

「居酒屋じゃねえんだからオススメなんてねえよ。どうせ、剣を極めたところでギ◯スラッシュが使えるようになるわけでもねえ。自分が使いたい武器、使いやすい武器を使うのが一番だわな」


そう、このゲームには『◯◯斬り!』みたいなスキルは一切ない。


その代わりに、メニューに『スキル創造』タブが存在しているのだ。

このタブは街などの安全なフィールドでのみ表示され、タップすると自分の好きなスキルを作るための空間に転移するようになっている。

そこで、スキル名と効果を自分で設定して自分だけのオリジナルスキルを作るのだ。


剣などの武器スキルを作る場合、発動の条件となるアクション(発声や特定のポーズなど)を設定した後に実際にスキル化したい動きをする。

その後で登録された動きを微調整したり、魔力を纏わせて属性効果をつけたり特効対象となるモンスターの種類とダメージ上乗せの割合を設定したりする。

他にもいくつか細かい設定項目があり、マジで無限に自分の好きなスキルを作ることができるのだ。


とはいえ、剣を振っただけで衝撃波が出て大地パッカーンみたいなスキルを作ったところで使えるとは限らない。

なぜなら、スキルの使用にはMPを消費するからだ。

しかも、この消費MPは作ったスキルの内容からGMのAIに自動的に判断して決定される。ダメージ量だとか使用魔力量だとかを総合的に分析し、消費MP量を判断するのだ。


魔法スキルの場合は、形状、属性(火、水、風、土、雷、氷、光、闇、無の9属性)、色(元の属性のイメージカラーと違う色だと消費MPが増える)、魔力密度、速度なんかを設定する。形状はアバウトなモデル(火球、水滴、刃などなど)をアレンジする形式から、粘土細工のように一から作る形式など様々。

ちなみに、アスカの”テレポート,,のような特殊な魔法スキルを作る場合、『何』を『何』に『どう』するのかを設定したりと、プログラミングに近いことをしなければならないので結構面倒臭かったりする。


また、込める魔力量に応じて威力や速度を変化させるためには同じくスキルプログラミング機能を利用して変数を設定しなければならないのでかなーり面倒臭い。


まあ、便利なものを作るためにはそれ相応の努力が必要というわけだ。


おっと、閑話休題。


「で、どうすんだ?」

「じゃあ…弓と、短剣を二本お願いします」

「ほう…短剣を二本ってことは二刀流やるつもりか?」

「だって、カッコいいじゃないですか!近づいてくるくるシュパシュパっと!」

「その感性は分からんでもないが…じゃあ弓は?」

「スナイプですよ」

「さっき言ってたことと正反対なんだが!?」


相手に気付かれていないうちは弓での狙撃でダメージを稼ぐ。

気付かれたらそれはそれで、短剣の二刀流でスパスパっとやる。うん、完璧だ。


「じゃあ…素材、あるか?…っつってもあるとしてもウルフの牙と毛皮ぐらいのもんか。それじゃあ、短剣にウルフの牙を8ずつ使って、残った分と毛皮は俺が買い取って、その代金から短剣の牙以外の素材代を引いた分の金で俺が持ってる素材で作れる一番マシな弓を作るってのはどうだ?」

「りょ、了解です」

「うっし、商談成立だ!毛皮と牙はどれだけある?」

「えーっと…牙が52個と毛皮が24個ですね」

「は?」

「牙が52個と毛皮が24個ですね」

「…よし、サキが異常なのはよーく分かった。えーっと…なら、8400円から短剣の材料費を引いて…7400円相当の弓でいいか?」

「へー、牙一個辺り100円で毛皮は200円なんですね。ちなみに性能はいかほどに?」

「…計算早すぎってところにはツッコまねえからな。7400円だと…トレントの枝とアラクネの糸ってとこかな」


なるほどわからん。


「それって強いんですか?」

「まあ、中レベルダンジョンやらフィールドのモンスターの素材だからな。このフィッツの街と…次のウィルの街周辺の敵なら余裕でワンパンできるぐらいだな」

「バランス大丈夫?」

「まあ、そんなこと言ったらそんな素材持ってる俺がここで鍛冶屋やってる時点でバランス壊れてるからな」

「そういえば、ヘパさんはなんでここで鍛冶屋を?」

「そんな呼び方されたの初めてなんだが?まあ、土地が安いからだよ。あと、実は一度行ったことのある街から街に転移する魔法が結構出回ってるからな。初心者とか上級者とか関係なくここが一番人が集まるからってのもある」


ほう…脳筋みたいな見た目してんのに意外と色々考えてるんだねぇ…。


「今何か失礼なこと考えたな?」

「え?気のせい気のせい」

「はあ…ほらよ、鎧返すぜ。あー、あとな、この先に服屋があるから見た目装備買っとけ」

「へ?なんでですか?」

「なんでって…そんな装備他じゃ出回ってないからだよ。目立つぞ」


あ、確かに。ヘパさん結構強そうなのに、それでも知らなかったってことは他の人からしたらすっごい装備に見えるかも?うん、結構カッコいいしね、この鎧。


「えーと、とりあえずインベントリに入れておいて服屋で見た目装備買ってから装備する感じですかね?」

「ああ。あと、ギルドで登録もしとけ。冒険者登録してあるとドロップ品の買取価格ちょっと高くなるから必須だ。その頃にゃ短剣も弓も出来上がってるだろうからここに戻ってこい」

「了解!それじゃまた後で!」

「はいよ」


再び扉を開いてむさくるしい鍛冶屋から外に出る。


ヘパさんの言う通り、通りの向かいにファッションセンターレまむらと書かれた看板が見える。


…「レ」なんだね。

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