第4話 オオカミ狩りだよっ!
「うーん…やっぱ凄いなこれ…」
そんな声が私の口から漏れるのも仕方がない。だって、目の前に広がるのは陰鬱な雰囲気漂う暗い森。
高さ20m〜30mほどの巨大な苔むした木々に、森特有の清涼感溢れる空気。これを全部コンピューターの中で再現してるなんて未だに信じられない。
「…っと…」
「グルルルル…」
ぼーっと森を眺めていると、少し離れた木の陰からこちらを覗く一匹のオオカミが。体長1.2mほどだろうか、身を低くして油断なくこちらを睨みつける姿は、流石はモンスターって感じ。怖い。
目を離さないようにしながら腰に差した木剣を抜き、両手で持って正中に構える。ていうか、構えなんか知らん。
剣を構えた私を睨みつけるオオカミの目からは激しい殺意を感じられた。どうやって再現しているのかはわからないが、目の前のコイツが本当に意思を持っているのではないかと思えるほどに―――
「わっ、ちょっ!」
…なんて考え事をしていると、いきなりオオカミが躍りかかってきた。鋭い牙の並ぶ口を大きく開いて腕に噛みつこうとしてくる。リアルでオオカミに飛びかかってこられたことなんて無いので比較のしようがないが、とにかく思ってたより動きが速い。
それをすんでのところで躱し、逆に脇腹のあたりを剣で斬りつける。まあ、刃のついていない木剣なので斬りつけるというより叩くというイメージの方が正しいが。
思ったとおり、オオカミにはさほどダメージは通っていないようだ。ダメージを与えることによって初めてオオカミの近くに表示されたHPバーは先程の攻撃で1割ほどしか削れていない。咄嗟のことであまり力を加えられていなかったせいだろう、オオカミもさほど気にしていない様子でこちらに向かって唸っている。
「うーん…なんかこう、思ったより…」
小さく呟く私に、再びオオカミが躍りかかってくる。先ほどとほとんど変わらない動き。
「せーの、ここっ!」
「キャンっ!?」
オオカミが接近してくるタイミングで、その大きく開かれた口からその口腔内に小さく引いて溜めを作った木剣を突っ込む。急所の頭部に攻撃が入ったからか、HPバーは大きく削れて残り2割ほどに。
自慢の突進を真っ向から潰されたオオカミは情けない鳴き声を上げ、口から剣を抜こうと必死にもがいた。しかし…
「よっ、と!」
木剣を強く握りなおし、もう一度深く口に押し込む。口を塞がれたオオカミは鳴き声を上げることすら叶わず、そのままHPバーを全損して力なく倒れた。
しばらくするとオオカミの死体は霧散し、視界の端に『+12EXP』『+1ウルフの牙』『+1獣の皮』の文字が表示された。
あ、このオオカミさんってウルフっていうんだね。そのまんまやん。
「っ…」
「誰!?」
インベントリを開いて戦利品をチェックしようとしたら背後で息を呑む音が。ウルフに集中していたせいもあるが、全く存在に気付かなかった。
咄嗟に振り返り、手に持った木剣を構えて不審者を睨みつける。
ラノベなんかでよくあるエンカウントかもしれない。あれだ、新人冒険者の主人公を甚振ろうとする中堅冒険者的な。
「あー、違う違う!ほら〜、初心者なのにこの…なんだっけ、ざわめきの森?にいきなり入っていくもんだから心配になってついてきただけ。あなた、IWO始めたてでしょ?」
そう言って木の裏から出てきたのは、銀色の鎧を装備した赤い長髪の女性プレイヤー。
ケモミミやらがついてないので種族はよく分からない。
「…お名前は?」
「だから警戒しないでってば!私はシルビア。普通のプレイヤーだよ。そもそも木剣ぐらいしか持ってないあんたを狩ってもしょーがないでしょうが…」
まあ、確かにそうか。でも…
「この森ってそんなに危険なんですか?一番最初のフィールドだし、敵も弱かったし…」
私が剣を鞘に仕舞い、顎に人差し指を当てて問うとシルビアさんは苦笑いしながら、
「いや、ここは3つ目のフィールドだから。少なくとも始まりの平原より先に来るところじゃないし。あと、さっきあんたが倒したウルフもレベル5はないと厳しいモンスターだからね?」
「…マジすか?」
「…マジよ。だってウルフの攻撃、VITが8とかだと確か耐えられなかったはずよ。レベル1の初心者なんてワンパンよ?」
「え?8なら耐えれますが」
「え?」
再度確認するが、私のVITは10。8ならワンパンって程度のダメージしか受けないなら、一発は耐えられるが…あ、そっか!
「そっか、人によってステータス違うのか…」
「…待って、あなたのステータス見せてくれない?」
「えーっと…どうやってですか?」
「メニューの左下に、目のマークがあると思う。それを押したら自分のメニューを可視化してもいい人を選ぶ画面が出てくるから『Silvia』ってのを選んで。そうしたらあなたのメニューが私に見えるようになるの」
シルビアさんに言われたとおりに操作していると、彼女が私の隣に歩いてきた。
そして、私のステータスを見て…
「えーっと、名前はサキちゃんね。それで、ステータスは…。…は?」
「ガチめの『は?』は怖いっすシルビアさん」
「あ、ごめん、いや、ちょ、それにしてもちょっと異常なステータスよ…?」
「そ、そうなんですか?」
すると、シルビアさんはコクコクと頷いた後で私の顔を見つめて、
「あなた、何者?あのね、初期ステータスで最高値の10なんて滅多に見られる数字じゃないの。特に、INTが10なんて前代未聞よ?私のフレンドに大学教授がいるけど、その人でも確か初期INTは9だったもの」
「えー…普通の大学生としか…ていうか、こういうゲームってリアルでの素性の質問するのってタブーなのでは…?」
「あ、ごめんごめん…。それにしても、羨ましいステータスしてるわね…。あ、多分だけど他の人にはあんまり見せない方がいいわよ。チート疑われて通報されたら色々めんどくさいからね」
うーん…そんなに言うほどヤバいのか…。でも、これがリアルでの運動神経やら何やらに左右されるんなら私以上にできる人なんていくらでもいるだろうし…。やっぱバグなのかな?
まあ、バグだとしても別に誰かが損するわけじゃないしね。いいバグなんだったらせいぜい利用させてもらうとしよう…。
(ちなみに、バグだと分かっていることを利用するのは『グリッチ』と呼ばれる不正行為です。思えば私(作者)も、小さい頃にマインクラフ◯でバグ利用して鉄やらダイヤの無限増殖やってたなぁ…。あ、閑話休題。)
私が俯いてそんなことを考えていると、シルビアさんがふいに思い出したように一言。
「あ、そうだ。ウルフは群れで襲ってくる性質があるから気をつけてね。まあ、さっきみたいに鳴かせないように瞬殺すれば仲間を呼ばれる心配もないから大丈夫なんだけどね。確かHPが半分切ったら仲間呼ぶために大声上げるから。それだけ気をつけてね〜」
「え、あ、はい」
「それじゃ、私は待ち合わせがあるからこれで。あんまり無理はしないようにね」
それだけ言うと、シルビアさんはもと来た道を辿って街の方に引き返していってしまった。
一人残された私は、
「嵐のような人って、シルビアさんのことを言うんだろうなぁ…」
と、呆然と立ち尽くすのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「バケモンがいたのよ」
そう、バケモンがいた。
え?ウルフ?あれはバケモンじゃなくてモンスター。
「どういうこと」
私にそう冷たい声で返すのは私のフレンドのアスカ。水色の長髪を後ろでまとめたウンディーネ。
「だから、バケモンがいたんだって。レベル1なのにほとんどのステータスが10で、ログインしてすぐにレベル3の森に行ってそのままウルフを仲間呼ばせる隙もなく倒したんだから」
「ウルフはともかく、ステータスが10?レベルかステか、どっちか見間違えたんでしょ」
「そんなわけないでしょ!しかもね、可愛いのよ。狐の耳つけた女の子なんだけどね、もう今すぐ撫で回し…いや、舐め回したいほどの美少女だったね!」
「はあ…結局そういうこと…」
そう、私は美少女が大好きなのだ。あ、もちろん男性を愛するよ、恋愛って意味では。でもね、美少女にスリスリしたり照れて慌てふためく姿を見るのが何よりの幸せ。あれだ、尊い。
多分私がいつか死ぬってなったら、その死因は尊死だろう。
「はい、で?今日はどこ行く?」
「…え?あー、黃龍の巣行ってみない?ちょうど昨日、推奨レベルに達したんだよね」
「了解。”テレポート,,」
何の演出もなく視界が急に変わったかと思うと、次の瞬間には私達は攻略予定のダンジョンの入り口付近に立っていた。
「さて、やってやりますか!」
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