第3話 どう考えてもチートスペックだよっ!

《Welcome to Ideal World Online. このゲームにはチュートリアル等はございません。どうぞ、気の赴くままにプレイしてください!》


そう、このゲームにはチュートリアルなどはない。一応、メニューを開くとある程度の説明を見ることはできるが、基本的にはプレイヤーの好きなようにやれ!ってスタンスのゲームらしい。


「ほええ…」


ていうか、思ってたよりすごいな。

まず、ベッドに寝転んでる感覚が一切ない。服装もいつの間にかTHE・冒険者!って感じの皮の鎧的なのに変わってるしそもそも視界の端にHP、MPバーとかメニューとか色々表示されてるし。


そして、今私がいる街よ。中世の町並みっていうのかな、異世界系の漫画やらアニメで見る景色そのまんま。レンガの家だったり露天だったり武器屋だったり…本物としか思えない景色だ。そして、その街を闊歩する多種多様な種類のプレイヤー。私のような獣人系から、騎士や侍といった出で立ちの人、そして、課金スキンの竜人も何人か。まるで本当に異世界に来たような…。


「あ、そうだ。ステータスは、と…」


梨沙に言われた、が、『自身のステータスのチェック』だ。

実はこのゲーム、リアルでの運動神経なんかに準拠して初期ステータスが設定される。

このシステム、最初は賛否両論あったのだがUTOPIA社の記者会見で社長が述べた『どうせ元ステータスが低いゲーム廃人共はすぐにレベル上がって追い抜けるんだから別に構わんでしょう』という発言で完全に沈黙した。

…いや、おかしいだろ。今考えてもなんで炎上しなかったのかが不思議なくらいだわ。


とまあ、そんなことは置いておいてまずは自分のステータスチェックだ。このゲームでは、『メニューオープン』と心の中で念じることで目の前にホログラム形式で表示される仕組みになっている。なんで念じただけで表示できるのか、そのシステムがよくわからないが毎回発声させられるよりは羞恥心的な意味でも圧倒的にマシなので気にするべきところではないだろう。


「えーっと…」


メニュー画面に表示されている私のステータスは次の通り。

Lv.1


VIT:10

MAG:10

STR:9

DEF:8

AGI:10

DEX:10

INT:10

LUK:9


VIT:生命力。最大HP量に影響。バーが無くなったら死亡。


MAG:魔力。魔法系スキル使用時に消費するMPの最大値に影響。


STR:力。物理攻撃力や物理スキルの威力に影響。


DEF:防御力。物理/魔法攻撃から受けるダメージ量に影響。


AGI:敏捷力。移動速度、攻撃の速度等に影響。


DEX:器用さ。物理スキルの威力、生産系活動の難易度、成功率等に影響。


INT:知力。魔法スキルの威力や消費MP量、状態異常付加、状態異常耐性確率等に影響。


LUK:運。レアドロップ率、その他諸々の乱数事象に影響。



「なるほどわからん」


ネタバレなんかが嫌なのでIWOのプレイ動画は絶対に観ないようにしてたが故に自分のこのステータスがいいのか悪いのかすら分からない。梨沙は『高校の通知表みたいなもんだよ!』って言ってたけど尚更わからん。通知表みたいなもんってことは、8


まあ、分からないことを考えていても仕方がないのでとりあえず行動することにした。一歩歩く毎に石畳の感触が靴を通して伝わってくる。どこかの記事で読んだが、実際の感覚神経と同じくらいの密度で情報を脳に伝える仕組みになっているので実際に感じるのとほぼ差異なく色々なものを感じることができるのだとか…。

いや、それにしても凄い。本当に自分がゲームの中の世界に入ってきたと錯覚するのが簡単なくらいには再現度が高い。


「…って、いちいち感動しててもしょーがない…えっと、梨沙は…確かD24…83A…OR6B21だったかな?」


フレンド申請タブに予め梨沙に教えられていた12桁のプレイヤーIDを入力し、『今どこにいるの?』というメッセージと共にフレンド申請を送信。すると、すぐに梨沙から返信が来た。


『RE−SA:ごめん!急に家族で出かけることになっちゃったから今日はログインできない!どうせ私も二日間一人でプレイしちゃってたし、今日は早紀だけでやってて!明日、一緒にやろ!ほんとにごめん!』


「む、今日は梨沙は来れないのか…」


まあいい、どうせ昨日一昨日と一人で好き放題やってたんだろう。そういうことなら私も今日は一人で暴れまわってやる。


そう思い直し、先ほどと同じようにメニューを開いて次はインベントリを開く。UIを見る限り持ち物の数や重量に制限はないらしく、今私のインベントリに入っているのは


・ポーション×2

・木のショートソード


のみ。所持金額は1000円とのこと。


…なんで円なんだよ、中世の世界観台無しだろうが。


「うーん…剣かぁ…」


剣道なんて生まれてこの方やったことがない。まあ、槍だろうが杖だろうが使ったことはないので一緒だが。


物は試し、木のショートソードを装備すると腰のあたりに鞘に刺さった木製の剣が現れた。

どんな剣なのか確認したい気持ちはないでもないが、町中で剣を抜いてみるのもどうかと思うのでとりあえず街の出口と思われる門に向かって歩き始めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ん?あの子は…」


違和感を覚えたのは、パーティーメンバーとの待ち合わせ場所に着いてちょうどくらいの時だった。

今まさに初めてログインしたばかりといった感じのケモミミの女の子が腰に木の剣を装備するや否や『レベル3』と言われる出口に向かって歩き始めたのだ。


この街――『フィッツの街』には、プレイヤーが利用できる出口が4箇所ある。

それぞれ『始まりの平原』、『静寂の洞窟』、『ざわめきの森』、『ウィルの街への道』の4つのフィールドに繋がる出口なのだが、面倒なのでそれぞれレベル1、2、3、4の出口と勝手に呼ばれている。


私――シルビアが見かけた女の子が向かったのは、レベル3と呼ばれるざわめきの森への出口。

確か、ウルフという狼のモンスターが結構な数出現するはず。

しかも、ウルフには連携を取って群れでプレイヤーに襲いかかる性質が。攻撃力もそこそこあるので、まず始めたての初心者に勝てる相手じゃない。


「ていうか、なんで最初に武器屋でもギルドでもなく狩りに出るかね…」


チュートリアルがないこのゲームの設定にも問題があるが、なぜいきなり街から出ようと思うのか…。自身の腕に自信があるか、それともこのゲームの知識が皆無か…。

恐らく後者だろう。どちらにせよ、無知な初心者プレイヤーがウルフに八つ裂きにされるのを黙って見逃すのも気分が悪い。


「はあ…ちょっとお姉さんが見守ってやりますかね」


待ち合わせの時間までまだ余裕があることを確認すると、その女の子の後をゆっくりとついていくのだった…。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



次回、初バトルです

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