旅立ち
3月中旬、記録的寒波の影響により桜の開花はまだ遠く、運動場に咲く木にはパラパラとしか桜の花は顔を見せていなかった。そんな時期に卒業式を迎えた。事前に用意した清楚な服装に胸には卒業祝いのワッペン。まだ12歳の子ども達は華々しい卒業を目の前にしていた。
式の中で小学校6年間を振り返る映像が映し出され、思い出がよみがえった。
大樹は元々病弱な体で小さなことですぐ泣いてしまったり、ちょっといいことがあっただけで調子に乗ってしまう喜怒哀楽が激しい子だった。小学校で初対面の同級生になかなか馴染めなくて泣いて帰る日々が続くこともあった。家に帰っては母の膝へ飛び込み友達ができない、勇気が出せないと泣きながら喚いた。母は大丈夫、大丈夫。まだチャンスはあるし友達は必ずできるよと頭を撫でてくれた。父はそんな息子を見て、なにかできないかと色んな経験をさせてくれた。キャッチボールをしたり、釣りに行ったり、絶叫マシンや、キャンプなども連れて行ってもらった。その頃には親友と呼べる子がひとりできたくらいでやっぱり友達にはあまり恵まれなかった。
しかし4年生の頃、流華が話しかけてくれたことにより、友達の輪が自然と増え、1年もすればクラスの中心人物になるほどだった。6年生では運動会での応援団長に抜擢され、一躍有名になったほどだ。
流華は三姉妹の末っ子で幼い頃から活発で幼稚園に通ってた頃からガキ大将に立ち向かうほどの強気な女の子だった。弱いものいじめするやつは許さないと言わんばかりに男子を退け、それが過ぎて先生に怒られるようなこともあったが周りからはいつも賞賛の声が舞っていた。それは小学校にあがっても同じで、生徒会を務め、男子に堂々と立ち向かい、クラス全員に愛される存在であった。
4年生の頃に自分から話しかけた大樹のことは前から知っていた。
それは3年生の頃の話。学校には昔から設置してある池があった。流華はその近くで休み時間遊んでいた。しかし、何かの拍子に転けてその池に落ちてしまった。幸い浅い池で泥まみれになるくらいで怪我はなかったが、池に落ちた時に落とした櫛が紛失していた。おそらく池の中。探そうにも探せなく、先生には諦めるように言われ、流華は仕方なく諦めた。別に特別なものでもなく高価なものでもなかったため、流華の母はすぐ新しい櫛を買ってくてた。しかし、翌日、1人の男子が泥だらけになりながら諦めたはずの櫛を持ちながら
「これ、君のだよね、ごめんねこんな汚くて、ちゃんと洗ったつもりなんだけど櫛の間の汚れが取れなくて、、」
苦笑いしながらそう言った。そう。その男の子が大樹だった。流華は大樹のその言葉を聞いたその時から彼は恩人だと思った。
そんなエピソードがあり、4年生で奇跡的に同じクラスになり、大樹に話しかけたのであった。流華は大樹の真っ直ぐな気持ちと純粋な思いに惹かれていった。
そんな二人の6年間も終わり、校庭で記念撮影が行われていた。大樹は男子友達とはちゃけてたくさん写真を撮っていた。もちろん2人の心の奥底にはツーショットを撮りたいという気持ちがあった。流華は大樹が来てくれるのを待つことにした。大樹は流華に話しかけようとしたが親がいたりして恥ずかしさが高まりなかなか声をかけられずにいた。流華は卒業式くらい勇気出してよ!と思いつつ、大樹に目で訴えた。だが大樹はなかなか勇気が出せない。やはり本心は小さい時から変わらないようだ。
撮影時間は終わりみんな解散していった。次々と学校を後にする。流華も呆れて岐路にたった。大樹は焦り焦り流華を引き止めた。やっとだ、恥を捨て、無事に記念撮影ができた。流華は呆れながらもほっとした表情だった。大樹は声をかけれなかった反省の顔もなく撮れた写真をただ宝石のように見つめていた。流華はそれを見て呆れもスっと収まった。
二人はもうすぐ中学生へと進級する。流華との約束である“中学生になったら付き合う”ということは大樹にとって待ち遠しいものだった。
一輪の綺麗な華は二度萎れる 華時 蓮 @kanta2004
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