第2話 道端の華 中編

可憐だと思ったあの日から数ヶ月が経った。

今日も具合が良くなかったようでさっきの時間は休んでいたようだ。今はこの学校に来た時から仲のいい立花 《たちばな》胡春こはるさんと話しているようだが。


立花さんはこのクラスのカースト上位に君臨する女子。可愛くて元気で誰とも仲がいい。オマケに、美人。だからこそみんな、仲良くするんだろうなぁ、というのが第一印象。僕はどちらかと言うと結衣さんの方がタイプだ。


「結衣、無理しちゃダメって言ったでしょ?次はちゃんと言ってよね!」


「うん、分かってるよ。心配してくれてありがとう。」


そうやって微笑む彼女はやっぱり綺麗で、僕はいつの間にかじっと見ていたらしく、手を振ってくれた。どう返していいか分からず、思わずそっぽを向いてしまったけれど。


カースト上位の人と話す高碕さんはそれなりに人気があるようで、僕みたいな陰キャと話すのは勿体ない。


次の授業では特に何も起こらず、ただただ真面目に現社の授業を受けた。その時も結衣さんに変わりはなかった。ちなみに、結衣さんと言うのは僕が勝手に読んでいるだけであって本人に許可は貰ってない。だからバレないように考える時だけ、自分が一人でいる時だけ、そう呼んでる。いつもは高碕さんだ。


昼食時、僕は隣のクラスの犀川くんと中庭でご飯を食べる。犀川くんは僕と同じ陰キャでアニメに詳しいオタクで、中学校からの友人だ。


「田代氏、先程からぼーっとしてるけど大丈夫?」


僕はいつの間にか空の方を見て固まっていたようだ。慌てて箸で掴んでいた卵焼きを食べる。


「い、いや!なんでも!」


「もしかして、彼女達を見ていたとか?」


犀川くんが指をさした方向には高碕さんと立花さんがいて、仲良さそうに弁当を食べていた。いつもあんな所で食べてたんだ、と同時にそんな事は無いと急いで否定しようとしたが、犀川くんの口から信じ難い事を言われた。


「…高碕結衣には近付かない方がいいと思うな、吾輩は。」


その何気ない一言は僕の頭を疑問符で埋めた。


「そ、れって、どういう?」


「高碕結衣には奇妙な噂があるんだ。その噂のひとつがDeVillstとの血縁って話。」


DeVillstは僕ら人類の敵で、ずっと昔から退魔師によって倒されている。その敵と彼女が血縁関係とは、どういう事なんだろうか。


「高碕結衣って体育にはあんまり参加してないって言われてるだろ?DeVillstは太陽の光を長時間浴びたらその姿を表すって言われてるじゃんか、だからそんな噂がたったんだと思う」


まぁ、その噂も萌えますけどな。

なんて最後に冗談っぽく言うと、弁当の卵焼きを食べ始めた。僕はずっとその事が頭から離れなかった。だって、彼女は優しくて、DeVillstなわけなんて、ないはずで。

自分に言い聞かせるように高碕さんがいる方を見ると、何故か高碕さんはこちらを見ていて、その視線が背筋が凍るくらい、怖い。


「田代氏?どうかしたんでありますか?」


犀川くんが僕と同じ方向を見ると、そこには高碕さんはいなかった。あれは、なんだ?幻?


「ううん、なんでも。」


誤魔化すように僕もご飯を一口食べた。

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