第2話 道端の華 前編

特に目を引くわけでもない。

例えるなら良くてガーベラ、悪くてたんぽぽ。薔薇みたいに美しいわけでもマーガレットみたいに可愛い訳でもない。至って普通。と言うより多分雑草と変わんない。


そんな彼女の事を、僕は気になってる。


彼女は僕達が進級すると共に転校生としてやってきた。


「今日から転校生としてやってきた高崎だ。」


「高崎結衣です。よろしくお願いします。」


先生の紹介でやってきた彼女の名前は高崎結衣さんというらしい。見た目は普通、特に変わったとこはない。普通の転校生みたいに簡単な自己紹介をして先生に案内された席に座った。それは僕の前だった。


こういうのって漫画とかだと窓際だと思ってたけど、彼女が来るということは春休み中に噂が広がっていたし、僕が教室に来た瞬間に一つだけ知らない席があったから多分そういう事だろうとは思ってた。


ただの転校生だと思っていたけど、後ろにいるからこそ他の人とは違うことが分かった。


この子は、姿勢がいい。


「高崎さんってどこから来たの?」


「京都です。親の転勤が理由でこっちに」


「へー。ねぇ、京都のコンビニって黒と白って本当なの?」


「はい。景観を壊さない為にコンビニは白と黒が多いですよ。」


休み時間には彼女に質問攻めをする女子の姿があったけど、それにも迷惑がること無く対応しているのは少し好印象。


けど授業が始まると初めてその席に座った時と同じように背筋を伸ばして授業を受けるのだ。居眠りをする訳もなく、ただ真面目に。


転校初日だからかな、印象を良くしようとするのは。僕だったら目立ちたくないけど、彼女は普通なりに目を引かれる所があったから、きっとみんなも放っておかないんだと思う。


僕みたいな陰キャには関係ない話だけど。


次の授業の時になると彼女は席にはいなかった。これは後々知ったのだが、彼女は持病を患っているらしく、よく体調を崩しやすいらしい。初日から気分が悪くなって今は保健室にいるんだとか。


「おい、聞いてるのか?」


考え事をしていたせいか先生に当てられたことに気づいておらず、目の前まで来た先生で我に返る。慌てて教科書に目を落とす。


「おいおい、そんなんじゃ次のテストは赤点取っちまうな」


冗談のように笑い混じりに言う先生にクラスメイトがどっと笑う。僕は何だか恥ずかしくなり、持っている教科書で顔を隠した。


これだから佐川は嫌いだ。


次の時間には顔色が良くなっている彼女が前にいた。具合が良くなったようで、真剣に板書をしている。僕も彼女につられるように板書をした。授業はいつもより短く感じた。


「あの、今お時間大丈夫ですか?」


次の授業の準備をしていると彼女に話しかけられた。透き通ったその声に僕は目線を少しづらしながら答える。


「あ、うん、はい。大丈夫、です。」


「では二限目の授業の板書を見させてもらってもよろしいですか?」


二限目は彼女がいなかった授業の時だ。


「あ、えっと、これ、あの、どうぞ!」


引き出しからノートを取り出し、覚束無い手つきでそれを前に出す。彼女は少し目を見開いてから口元に手を持っていき、軽く微笑んだ。春風が窓から流れた。


「ありがとうございます。」


そう言って前を向く彼女。僕は見誤っていたようだ。彼女は普通ではなく、大層な美人だ。


顔の熱は収まる事を知らないから、机に突っ伏して寝るふりをした。こんな事、バレちゃいけないから早く収まってくれ!


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