第17話 メッキ剥がし

「あたしの元父親の斎藤茂雄はね、あたしには『胸の大きさで女を選ぶ男はクズだよ』とか言いながら合法ロリな巨乳人妻と浮気してたの」


 矛先がこちらに向きそうになったので「そこはごめんなさい」と謝ったら「所長はいいの、あたしが最高に許せなかったのは、斎藤茂雄はあたしの通っている戦勝記念学院の夏物の制服をエッチなお店で買ってきて所長の奥さんに着せてたことなの」と衝撃の真実を告白した。


「そんなことがあったの?」

「しかもサイズがSだったのよ。所長があたしなら我慢出来ますか?」

「ちょっと気持ち悪いな。しかし名門女子高の制服は専門店で50万円くらいかな」


「動画サイトでもかなりの人気でしたね。戦勝記念モノは」金田鉄雄が余計な口を挟んだ。

「留美音さんと仰ったかな。あなたのお父様はあの制服を着せたくてあなたを進学させたのでは?」

「というか、お父さんを喜ばせたくて中学受験を頑張ったのに」

「振り向いてくれなかったということですか。しかし高校生になればあまり関係無くなるのでは」


「娘一人だから老後はあたしが介護するつもりだったんです」

 Sサイズの制服の話にショックを受けていたら留美音が金田鉄雄法王に人生相談をしていた。話の流れを変えなければと思ったが何を言えばいいのか咄嗟に思いつかない。


「話の限りではお父様にも非があるが、人を許すことで人間は成長するのです。『お父さん帰ってきて』と言えばあなたは幸せになりますよ」

「留美音ちゃん、ダメだ」俺の言葉に彼女ははっと我に返った。

「ですよね。浮気と盗撮、そしてブルセラ。モデルとして頑張っても男の子って制服や胸の大きさで判断するんですよ。金田さん、あなた教祖とか言って全く人間として成長してませんよね」


 金田鉄雄の額に汗が浮かんだ。実は俺も叱られている気分がした。

「あたしの後輩達、泣いてました。あなたが泣かしたのですよ、金田さん」

「誰が動画を見せたのかね」

「あたしが見せました。被害に遭っていることを認識させるために」

「それは罪作りなことをしたね、お嬢さん。そういうものを見つけたら、秘するが花、というのが大人のやり方……」


「都合のいい事言わないで。金田さん、ピーピングトムの話はご存知ですか?」

「王妃だか王女の裸を盗み見た男の話か。それが、何か」


「ピーピングトムは、その罪で目が潰れました。あなたも目が潰れますよ?業って言うんですか?そういうので」

「脅かすようなことを言っても、金は払わない」

 

 ここで俺が口を挟んだ。

「この時点であなたを盗撮犯として通報することが出来ます。目どころか、顔が潰れますよ?」

「何年かけても、無罪を勝ち取る」

「所長、話にならないですよ、今日はあの巨大な招き猫ぶっ壊して帰りましょう」


 留美音は席から立ち上がり、俺のスーツの袖を引っ張った。

「ちょっと待ってくれ、いきなり乱暴な話になったようだが、止めなさい、罰が当たるぞ」


 金田鉄雄がうろたえたので、意地悪な質問をしてみることにした。

「金田さん、あの御本尊、原価おいくらですか」

「か、金では値打ちは図れないっ」


「三軒茶屋にこの寺院、信者に今日だけでも一千万を超える献金をさせて、開運グッズの売り上げがあって、なのに本尊が金メッキでしょ?誰だって気になりますよ」

「あれは、私が念を込めたもので」金田鉄雄は顔面蒼白になりながらも主張。


「留美音ちゃん、あの招き猫の胎内に何が詰まってるのか気になるよね」

「はい、気になります」

「どうせこの人警察呼べない人だから、やっちゃおうか」


「やめてくれ、困るんだ」腰を浮かした金田鉄雄が「ぎゃっ」と悲鳴を上げた。留美音がひっくり返したテーブルと床に、足を挟まれたからだ。


「罰が当たるというなら、今すぐ当てて下さい。あたし顔立ちでよく舐められるんですけど、気が短いんです」留美音はテーブルを更に足で踏みつけた。


「ええと、家庭内暴力の延長は止めて、本堂に行かない?」

「はい、所長」彼女は踵を返し、楽しそうに俺について来た。

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