第四話 荷物検査自滅の謎
(導入編)お姉さんまたロリに課金
その日お姉さんの部屋に出向くと、ゲームカセットのパッケージがこれ見よがしに置いてあった。お姉さんはゲーマーなので、それ自体は珍しいことではない。問題だったのは、それが何のゲームであるかだ。
「あーーーーっ、『マジニン』!! 買えたの⁉」
「うん。そのへんに売ってたよ」
『マジニン』――『MAGICAL GIRL ⅤS NINJYA』は、魔法少女と忍者が戦うアメリカ発のアクションゲームだ。対立関係にある二つの派閥のどちらに所属するかを決めることからゲームが始まり、魔法少女ルートと忍者ルートの両方をクリアすることで物語の全貌が明らかになる。舞台となっているちょっとズレた日本やアクションの爽快さ、オンライン対戦のバランスの良さ、そして骨太なストーリーが面白い――と、人気の実況者がこぞって動画を作ったから売り上げが急増し、現在超品薄となっている一作である。
それを、お姉さんが……!
私は衣服の詰まったゴミ袋にもたれかかりながらゲームに興じるお姉さんに駆け寄り、特別かわいい声で話しかける。
「お姉さん忍者派なんだ~、ゲーム上手だねぇ」
「ストーリーは忍者と魔法少女両方で裏クリまでしたよ。いまやってるのはランクマだね。この試合勝てば一桁乗るかも」
「へ~、すご~い!」
画面の中では、お姉さんの操る忍者『ビシャモン・ガール』がダウンした相手の前で高速で屈伸を繰り返してる。立ち上がった相手を掴んで投げて、また屈伸してのループ。たぶんマナーの悪いプレーだ。
もうちょっとで勝てそうだなーと思っていたら、お姉さんは突然「飽きちゃった」と言ってゲームの電源をブチ切った。ぽかーんとしている私に対して「やってみたい?」と訊いてくる。
「やりたいやりたい!」
甘えて気をよくさせてからおねだりしようとしてたけど、案外早く願いが叶いそうだった。けど、両手をゲーム機に伸ばした瞬間、お姉さんは素早く手を上に挙げてそれを阻止する。立ち上がって取ろうとすると、お姉さんも立ち上がる。そうするともう手が届かない。無駄な足掻きと知りながら、私はぴょんぴょん跳んで粘った。
「もう飽きちゃったから、貸すというかプレゼントしてもいいのだけれど……そのためには合言葉が必要だな」
「合言葉? なんていえばいいの?」
「それだったらね、50点でいいよ――悪いお姉さんが教えてあげる」
はめられた、と思った。お姉さんは最初からこのつもりでいたのだ。遊び終わったゲームを適当な場所に売るくらいなら、私と悪い事をする口実に使ったほうがいい。お姉さんはお金持ちだし、私はお金で買えないのだから。
たじろぐ私を見て、お姉さんは薄暗く笑う。
「君の貯金はいま25点だね、ちょうど半分。そしてちょうど……最近やってない25点のことがあるね。私が君ならそれを選ぶな」
お姉さんは押し入れの一番高いところにゲームを置くと、私の背後に音もなく回った。浮世絵みたいな黒髪がふわりと流れて、煙草の匂いと甘い匂いが混ざった空気が鼻をくすぐる。
そのままシャツの生地を両手でつまんで、ぱたぱたと中を煽いでくる。風を送られているはずなのに、その部分が熱を帯びてくる。
「……わかった。それでいいよ、ちゃんと10秒ね」
「じゃあ腕、挙げて……そう……」
「お姉さんってほんと変態だよね」
「聞こえなかったなもっかい言って」
「……絶対言わない」
いやらしいことに、お姉さんは最初にブラをたくし上げてきた。それから直に触れてくる。胸の輪郭をなぞるような手つきがくすぐったくて、私は思わず身をよじって笑った。
「んひ、んひひっ……ちょっ、ちょっと待って! くすぐったははは!」
「前よりちょっと大きくなったけど、まだまだ子供だね」
だんだんと揉み込むような手つきに変わって、お姉さんの息がわずかに荒くなる。でも指先は冷たいままで、それが余計にくすぐったかった。けれど、触れている場所の奥のほうから、だんだんと変なじれったさみたいなものが込み上げてくる。
その正体を掴むより早く、お姉さんは強く押すような動作をやめた。さきっぽの周りをくるりとなぞって、私の服から手を引き抜く。
「はい、10秒。よく頑張ったね」
「あ、あれ……?」
少し頭がぼうっとしてきた私に対し、お姉さんは「あと五回くらいで大人かな」とよく分からない事を言った。私のブラを定位置に戻してから、押し入れに置いてあったゲームを手に取る。そこから『マジニン』のカセットを抜いて、私に差し出した。
受け取ろうとすると、ひゅっと手の届かない場所に持ち上げる。
「あれ、もう50点溜まったよね?」
「それは合言葉を教えるために必要な点数だよ。合言葉を言わなきゃ渡せないな」
「じゃあ教えてよ」
「いいよ。それはね――――」
お姉さんはそっと私に耳打った。自分の頬が熱くなるのが分かるけど、そんなのお姉さんの思うつぼだ。私は手でうちわを作って頬をぱたぱた冷ましてから、なるべく感情のない声で言う。
「……『お姉さんってほんと変態だよね』」
「ちゃんともっかい言ってくれたね。聞こえたよ」
今度こそ、お姉さんはカセットを私に差し出す。
「はい。私のデータを使うにも新しく始めるにも、好きにするといいよ。ゲーム機、家にあるでしょう? ママにバレないようにやるんだよ」
「へっ? 私、借りるだけだよ。自分のぶん買ってもらったらちゃんと返す」
「いいよ、あげるよ。私は飽きちゃったからね」
「でも、私とやるのは飽きてないでしょ?」
お姉さんは珍しく、きょとん、という顔をした。私もそれに「あれっ?」となったけど、とりあえず説明を続ける。
「対戦もマルチプレイも楽しいらしいから、お姉さんと一緒にできたらいいなって、考えてたの。楽しみだなー」
お姉さんの顔に一瞬、穏やかな笑みが差した気がした。けれどそれはすぐに見えなくなる。私のことをぎゅうっと抱きしめたからだ。
「? どしたの」
「君が可愛くてつい」
「あついよー」
「ん、ごめん……」
そう言いつつわずかに体重をかけてくるお姉さんは、なんかちょっとだけいとおしかった。けどこの女さっきまで私のおっぱい触ってたんだよなって思うと、そんな感情も中和されてしまう。
「君は基本的に悪い女なのに、たまに年相応になるからずるいよね」
私から身体を離しつつ、お姉さんはそんなことを言った。悪い女なのはお姉さんでしょと思いつつ、そういえばこの人は何歳なのだろうかとぼんやり考える。肌も綺麗で若そうだけど、実際は外見を偽った魔女かもしれない。
自由の身になったので、私はお姉さんにゲーム機本体を借りて『マジニン』をプレイし始める。もう実況で何度も見たOPだけど、自分で見ると新鮮だった。
「嬉しいかい?」
「うん、クラスで一番乗りだもん」
「じゃあ明日学校に持ってって自慢しちゃおうよ」
「だーめ。明日は抜き打ちの荷物検査があるから」
操作説明をスキップしつつ言う私を見て、お姉さんはくすりと笑った。
「抜き打ちなのに明日くるって分かってるのか」
「うん。先生たちの決まり事でね、抜き打ちの荷物検査で引っ掛かった人がいたら、次の週のどこかでも行うことになってるんだって。そこでも引っ掛かった人がいたら、今度は次の週毎日やるんだって。
で、先週あったほんとの抜き打ちチェックで隣のクラスの子が引っ掛かって、今週もやることになったの。今日は木曜でしょ? 今日までこなかったから、ぜったい明日。けど、先生としても毎日チェックはめんどくさいから、二回目の抜き打ちチェックは金曜日にやるっていうのが決まってるんだって」
とはいえ、二回目が絶対に金曜日というのは生徒たちの間で受け継がれている噂だった。いつ先生が裏切るとも分からないので、一回目のアウトが出た次の週はみんなお利口になる。まあ大半の生徒は最初から持ってきちゃだめなものなんて持ってこないんだけど、そうじゃない人もいる。私とか。
「なるほどねぇ。じゃあ、来週にみせびらかすか」
「それじゃあもう遅いよぅ。サッカー少年団の男子たちは土日の間に『マジニン』届くって言ってたもん。カセット貸し合って遊ぶって」
「ざーんねん」
そもそも私の中には『みせびらかす』という選択肢が無かったのだけど、お姉さんはちょっと性格が悪いところがあるから違うらしい。ゲームをする私を見る目はなんか楽しそうで、なんでかなって思って、すぐに答えがでた。
『マジニン』目当てで、私がしばらくの間お姉さんの部屋に通うことになるからだ。
でも結局のところ、私は『マジニン』抜きに翌日もお姉さんの部屋に行ったと思う。
全員がパスすること前提で行われた抜き打ち荷物検査に、望んで引っ掛かった生徒が現れたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます